ツリフネソウ
Impatiens textori Miq.
ツリフネソウ科 離弁花 一年草
分布 北海道〜九州
高さ 30〜80cm
花の時期 8〜10月
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木々の梢がまだ芽ぶかない晩春のころ、木立の下の流れにそって斜面をうめつくしていたツリフネソウの双葉は、夏には数十cmにものびた中型の草にとってかわって、長い花序ににぎやかに紫色と黄色のまだらもようの花をぶら下げる。
花は3個のがく片と3個の花びらから成り、なかでも唇弁と呼ばれる後ろ側にのびるがく片は袋状の特殊な形をしていて、袋の先は渦巻きのような管になっている。この管は距と呼ばれ、先の小さなふくらみに蜜がある。花冠は、正面に立って花粉を運ぶ昆虫の標的となる花びらと、前方にのび出して昆虫の足場となる左右1対の花びらの3個から成る。花序は茎の上のほうの葉のわきから上にのび、暗紅紫色の短くて太い突起が生えるのも大事な特徴。
茎は水分が多く、すき通るような感じ。節はふくれて、互生する葉をつける。日照りにはしおれやすいが、水をやればすぐ回復する。
山里から低山帯まで、半日陰の湿地や水辺の草むらにふつうにあり、たいてい群生している。柄の先にぶら下がって咲く特徴のある形の花を見つければ、まちがえることはない。
キツリフネも、ときどきツリフネソウに混じって生えているが、キツリフネは花序が上部の葉のわきから出て下に向かう。花はもちろん黄色で、唇弁の距は渦巻き状に巻かないので、花の時期にはすぐ区別がつく。花がないときには茎や葉の性質が手がかりになる。キツリフネの茎や葉は白っぽい緑で、葉の鋸歯は丸くて低い。ツリフネソウは、茎や葉脈は赤味があり、鋸歯は深くてより細かく、先は突起状に脈がつき出る。
ツリフネソウの学名にImpa-tiensとある。これは、果実にさわると瞬間的に縦に割れて、果片が渦巻き状に巻き上がってなかの種子を勢いよくはじきとばす性質を表したもので、「我慢できない」という意味である。おなじみのホウセンカも同じなかまである。ふつう、インパチエンスと呼んで花屋で売られているのは、アフリカ原産のアフリカホウセンカで、ホウセンカと同じように世界中の花だんや花だんのふちどりに植えられ、花のデコレーションにも必ず出てくる。アフリカホウセンカは、世界でもっとも普及している花のひとつである。
ツリフネソウ属はオーストラリアと南アメリカをのぞき、アジアやアフリカの熱帯を中心に1,000種近くもあるが、園芸植物として知られているのは、最近出まわりはじめたニューギニアホウセンカを合わせて3種しかない。ツリフネソウもキツリフネも、野草として庭植えや切り花を楽しむことはあっても、園芸植物にまでは発展しなかった。ヒマラヤから来たロイルツリフネソウとハナツリフネソウも園芸植物とはいえないが、ときどき栽培されているのを見かける。札幌では最近、両者ともに庭先からぬけ出して、ツリフネソウのなかまとしては日本ではじめての帰化植物となった。
中国では、ツリフネソウの根を霜王亡と呼び、解毒の民間薬として使う。夏から秋にかけて根を採取し、日干しにした上、酒に浸して飲むか、粉末にして練り、患部にぬると、とどこおった血をとり、はれものや吹き出ものが治り、打撲傷にも効くという。朝鮮半島では、かつては葉を煮てさらし、野菜として利用された。
文芸の世界では、今では秋の季語として定着しているが、なぜか古典にはツリフネソウも別名のホラガイソウも出てこない。日本にはツリフネソウのなかまは、前出のキツリフネのほかにハガクレツリフネとエンシュウツリフネがある。ともに花は紅紫色であり、花序は葉のわきから出るとすぐに曲がって、葉の下にかくれるようにのびていく。葉の両面には白い縮れた毛がある点も、ツリフネソウやキツリフネとはことなる。ハガクレツリフネは紀伊半島・四国・九州、花も葉も一段と小さいエンシュウツリフネは静岡・愛知・長野(南端)・大分各県に分布している。
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