イケマ
Cynanchum caudatum (Miq.) Maxim.
ガガイモ科 合弁花 つる性多年草
分布 日本全国
高さ つるの長さは2〜3m
花の時期 8月上旬〜中旬

根はゴボウのようで太く、直径4cmくらいになり、地下に横に1〜2mも長くのびる。5月の中ごろ、数本の根が集まったところからつるをのばし、やぶの上にはい登り、一面につると葉を茂らせる。

葉はハート形で、長さ5〜10cm、幅4〜10cmで、先が長くとがる。花は8月上〜中旬、6〜12cmの茎の先にたくさん集まって咲く。花は、白色で香りがよく、星のような形をして、直径6〜8mmくらい、5枚の花びらが目立つ。花びらの根もとは筒のようになる。雄しべは5本あり、雌しべのまわりを筒のように囲む。雄しべの外側にコブのようなもの(副花冠)がある。果実は細長く、長さ8〜10cmあり、なかからタンポポのような毛のある種子がたくさん出る。

少し高い山の林のふちや、日当たりのよい草地のやぶに見られる。北のほうが多い。いたるところにふつうというほど多くはないが、一度見つけると、そのまわりにたくさんあることに気がつく。花の時期には、白い小さな花が集まって咲くのでよく目立つ。

花にはたくさんのチョウやカミキリムシ(甲虫)のなかまが集まるが、そのなかに、とてもきれいなアサギマダラというチョウがいるはずなので探してみよう。このチョウは、春にイケマのつるがのびるころ、暖かいところから飛んで来て、葉に卵をうむ。夏には、幼虫がイケマの葉を食べ大きくなる。イケマの花が咲くころ、幼虫は成虫になって暖かいところに飛んで行き、そこに生えるキジョランというなかまの葉に卵をうむ。うまれた幼虫は冬の間、キジョランの葉の裏で、春を待つ。イケマとキジョランはどちらも葉に毒がある。このチョウの幼虫は毒の葉を食べるので、野鳥に食べられずに生きることができるのだ。イケマには、チョウとこんなふしぎな関係がある。 根は、家畜や人の薬や食物として利用される。

イケマは「生き馬」の意味で、ウマが腹のなかにガスがたまる病気になったとき、根をすり下ろして、水と一緒に飲ませると、ウマは大きなおならをして、腹の中の悪い便を出し、生き返るという。明治のころの本には、これはまちがった説として紹介されているが、富士山麓のある村では、ウマを飼っていた村人がじっさいにウマをこの方法で助けたことが伝えられている。

別説では、イケマの名は北海道のアイヌ語で、長くのびた太い杖のような根は、神様の足であるという考えからついた。イは神様、ケマは足の意味である。アイヌ族には、根を食物として、焼いて食べる習慣があったが、根には毒があり、ときとして、中毒することがあった。つまり、神様の足であるイケマを食べると、ときによっては、神様のバチがあたるというのである。また、アイヌ族には、根には、男の性器をだめにする力があると信じられ、根を干して、若い女が旅のお守りに携帯すると、悪い男から逃れられるという。

根には、アルカロイドという有毒の成分があり、大量に食べたりすると、命に関わる中毒をおこすが、少しでは薬となる。干したものを牛皮消根と呼び、利尿の薬とする。ちなみに、牛皮消は、中国では、イケマのなかまであるCynanchum auricula-tumをさす。ワラビのように地面からのびた若芽は、ゆでて、アク出ししてから、山菜として食べる。

学名のCynanchumは、ギリシャ語でkyon(イヌ)とancho(しめ殺す)の意味。イケマのなかまがイヌにとって毒とされた。caudatumは、尾のようにという意味。イケマの葉の先が尾のようにのびるから。英語でイケマのなかま(ガガイモ科)をミルクウィード(ミルクの草)というのは、茎や葉を切るとミルクのような白い汁が出るからである。同じガガイモ科の植物として、赤紫の花のガガイモ、和名のおもしろいキジョラン(鬼女蘭)、厚い葉をもつサクラランなどがある。このうち、ガガイモは有毒であるが、若い果実が食用になる。