ホオノキ
Magnolia obovata Thunb.
モクレン科 離弁花 落葉高木
分布 北海道〜九州
高さ 30m
花の時期 5〜6月

大木になる樹木。枝の先に長さ40cm、幅25cmにもなる大きなボート形の葉が10枚近くも車輪のように集まってつく。葉は秋に黄色になり、やがて落葉する。

直径20cm近くにもなる大きなクリーム色がかった白い花をつける。花びらは長さ10cmくらいで、ラーメンのスープを飲むレンゲに似た形で6枚ある。がく片は長さ3cmくらいで3枚ある。花の中心に太い柱があって、その下のほうには、黄色のバナナのような雄しべがたくさんらせん状に並んでいる。上のほうには、先がチョコレート色で針のようにとがった雌しべが、やはりらせん状にたくさん並んでいる。花は強い香りを発する。秋に長さ10cm、太さ4cmくらいの固い果実をつけ、なかから赤い直径1cmくらいの種子が出る。学名のhypoleucaは、裏が白いというの意味で、葉の裏のようすを示している。

全国の山に生える。少しすずしい気候の落葉樹の生える山に多い。大きい葉と長くのびた枝をもつ樹木の姿が特徴的である。とくに、枝の先に大きな葉が車輪のようについている樹木はそんなに多くはないので、ホオノキはすぐに見分けられる。林のふちで真っすぐに1mくらい幹をのばした子供のホオノキもよく見かける。

大きな葉は食べ物を包むのに便利で、ご飯を盛る皿とされる。また、味噌を包んで焼く「ほおばみそ」は岐阜地方の料理で有名である。もちを包むこともあり、地方によっては、「かしわもち」といえば、カシワの葉ではなくて、ホオノキの葉で包んだものをさす。静岡県では、子供の日のお祝いのかしわもちをホオノキの葉で包む習慣がある。

ホオノキの材は、きめが細かく、軽くて、のび縮みが少なく、しかも、カンナやナイフでかんたんに加工ができ、仕上がりがきれい、というすぐれた性質をもっている。おまけに、材の色が白っぽい灰色で、美しい。そのため、建築材だけでなく、多くの目的に利用される。そのうち、版画を彫る版木には今も広く利用されている。このほか、日本の伝統を伝える扇子の骨や、日本刀を納める白鞘、寺にある木魚などに利用される。また、ピンポンのラケット、マッチの軸と広い用途がある。下駄材として、少し前までは、人々になじみの深いものであった。下駄材としては、キリノキが軽くて最高級品であるが、ホオノキは材が安いので、一般品として、学生用の高下駄などに盛んに使われた。今、50才より上の人は、若いころにこのゲタで学校に通っていたかもしれない。川端康成の小説『伊豆の踊り子』の主人公は「ホオ歯の高下駄」をはいて天城山を登って、踊り子に会う。

薬用としての利用もある。乾燥させた幹や枝の皮は、和厚朴と呼ばれ、煎じて飲めば、消化を助け、胃を丈夫にする効果がある。ホオノキの材からとる木炭は質がよく、金や銀の細工ものをみがくのに用いられる。なかまは90種くらいあり、世界のなかで、太平洋をはさんで、アジア大陸とアメリカ大陸に分かれて分布している。日本のなかまはアジア大陸のに似ている。中国には、よく似たなかまがあり、中国名を厚朴という。この幹や枝の皮は、ホオノキと同じに胃腸の薬として利用される。庭に植えられ、春に美しい花をつけるモクレンやハクモクレンは中国から伝えられた。公園に植えられるタイサンボクや、少し遠いなかまであるユリノキはアメリカの原産である。コブシやタムシバは日本の野生の樹木で、コブシは千昌夫の歌にあるように、「北国の春」に欠かせないかもしれない。しかし、北海道から九州にまで分布する。ホオノキのなかまには、落葉樹と常緑樹の両方がある。常緑樹は、熱帯の山に多く分布している。熱帯に種類が多いことから、熱帯でうまれたなかまと考えられている。また、熱帯は植物の進化したところで、原始的な植物が残っていると考えられている。ホオノキもそうした原始的ななかまのひとつである。