ヒガンバナ
Lycoris radiata Herb.
ヒガンバナ科 単子葉 多年草
原産地 中国
分布 本州・四国・九州
高さ 50cm
花の時期 9月

ヒガンバナは、ふしぎに彼岸のころになると、約束したように花を開く性質がある。このため、ヒガンバナという。別名の曼珠沙華も彼岸(仏教でいう極楽浄土のこと)と関係があって、昔お釈迦様の時代のインドで「天上の花」を意味したそうである。花の時期になると、地面から、割りばしより少し太い葉のない茎だけがスルスルとのびて、その先にいくつもの赤い花を横向きにつける。

花びらとがく片は同じ色と形で区別がつかないので花被片という。両方ともに細長くて、ふちが波のようになり、花が開くと茎のほうへそり返る。花の香りはない。雄しべは6本、雌しべは1本。雄しべも細長い棒のようで、花の外につき出ている。雌しべの下のほうはふくらんで、種子をつくる子房になっている。

花が終わると球根(鱗茎)から細長い葉がたくさん出て、ほかの草が枯れている冬の間に太陽の光を一人じめして栄養分を球根にためる。葉はほかの草が芽を出す春になると枯れる。葉と花は互いに見ることがないので、「葉見ず花見ず」の名もある。

夏休みが終わって少しすずしくなって、日の入りも少し早くなる彼岸のころに、田
んぼのあぜ道や小川の土手などに行ってみると一面に赤い花をたくさん咲かせているので、すぐ見つけられる。赤い花の集まりは、すみきった空の青や実ったイネの黄金色とコントラストをつくって美しい。北海道から沖縄まで、全国で見られるが西日本のほうが多いかもしれない。多いところでは、まったくふつうの秋の草花である。しかし、地方によっては、とても少ない。たとえば、茨城県のつくば市では、田んぼへ行っても見られないほどである。

冬の間は、青々と茂っている葉は、春になってサクラが咲き出すころになると、黄色く枯れて、地面に倒れてしまう。この時期はあまり注意されないが、ヒガンバナが眠り出すようすも観察してみたい。このころ球根を掘り出してみると、大きくなって栄養をしっかり蓄えたようすが分かる。

球根にはリコリンという毒の成分があるが、この成分は水にとける性質がある。昔、作物がとれないときに、球根をつぶして、水で洗って毒成分を洗い流し、デンプンを集めて食用にした。四国地方では、食用のために植えてふやした。

ケナシイモ、ウシノニンニクといった名前は食用にすることからついた。また、毒があり、葉などを口に入れるとしびれるので、シビレバナ、シタマガリ、シタコジケという名前もある。リコリンは心臓の毒であるが、一方でせきをしずめる効果があるので、薬としても使う。また、頭痛の時、球根の汁とキハダという木の皮の粉を混ぜて、紙にぬってひたいにはった。

ヒガンバナは、中国の原産で縄文時代に日本に入ったといわれる。中国でも食用や薬にする。

彼岸に咲く花なので、墓のまわりによく植えられ、縁起の悪い花としてきらう人もいるが、花がきれいなので、庭に植えられたり、生け花にもよく用いられる。

学名のLycorisは、ギリシャ神話の海の女神の名前からつけられた。ヒガンバナの花の美しさを女神の美しさにたとえたのであろう。radiataは、「放射状の」という意味で、花びらとがく片が放射状につくことを表している。白い花のシロバナマンジュシャゲは、ヒガンバナにとてもよく似ていて、中国にあって種子が実る白い花のヒガンバナとショウキズイセンとの雑種といわれる。ヒガンバナより少ないが、各地で植えられる。黄色い花のショウキズイセンは、ヒガンバナより少し大きい黄色い花を咲かせ、花だんなどに植えられる。筆者は、中国の雲南省の山奥の川のそばで、たくさんの花が咲いているのを見たことがある。キツネノカミソリは、ヒガンバナと同じく、墓のまわりや林のふちなどに生えるが、夏にオレンジ色の花を咲かせ、種子ができる。ナツズイセンは、やはり夏にヒガンバナより少し大きなピンクの花をつける。