クズ
Pueraria lobata (Willd. ) Ohwi
マメ科 離弁花 つる性多年草
分布 北海道〜九州鹿児島県
高さ 10m
花の時期 8〜9月

太いつるをやぶの上や樹木にからみつかせ、柄の長い3枚の小葉をもつ葉を一面に茂らせ、赤紫色の長さ2cmくらいの花を穂のようにたくさん咲かせる。花は白いこともある。春から夏にかけて、ものすごい勢いでつるをのばしながら、強い太陽の光を利用して、大いにでんぷんをつくり、それを根にたくわえる。その根は、長さ1m、直径20cm、重さ30kgにもなる大きなものである。それは、次の年には、またものすごい勢いでつるをのばすために多くの栄養分をためこんでいる。

花は、スイートピーと同じ形でマメ科の花に共通なチョウのような蝶形花である。花びらは5枚で、正面から花を見ると、一番目立つ旗弁があり、その左右に2枚の翼弁、中央につき出ている2枚の竜骨弁がある。雄しべと雌しべは竜骨弁のなかにある。豆果は長さ5〜10cm、なかに小さな豆が入っている。日当たりのよい道ばたのやぶや林のふちに一面につるをのばす。3枚の小葉と元気にのびる毛の生えたつるが目印。探すのはかんたんである。林のふちでは、樹木を包みこむようにつるを茂らせる。これを、植物生態学では、マント群落という。林がマント群落をもっていることは、人間がマントを着ているのと同じことなので、林の環境をマント群落が保護する働きがあると説明することがある。しかし、つるにからみつかれた樹木はクズに太陽の光を横どりされ、つるにしばられて成長ができなくなる。ひどい場合には、樹木は枯れてしまう。そこで、林業として、樹木を育てる人達は、クズのつるを切って、樹木を助ける仕事を欠かさない。

クズのつるが林を守るよい働きをするのか、林をいためる悪者なのか、じっさいにクズを見つけたときにはよく観察して、みなさんに考えてほしいと思う。

クズは縄文時代から知られる有用植物で、秋の七草のひとつでもある。

クズの名前は、大和(奈良県)の吉野地方にあった古い村の国栖から、この植物の根からとった粉を売りに来たことから、という説がある。また、『古事記』に「久須」として、また「真葛」としてクズのことが出ているという説もある。中国では、「葛」の名前で呼ぶので、中国の名前が先にあったのかもしれない。 根に蓄えられた良質のでんぷんが葛粉である。奈良県吉野地方の吉野葛は有名である。冬に根を地下から掘り出して、くだいて、でんぷんをとり出し、水で何回も沈殿させて洗うと、きれいな白い葛粉がとれる。葛粉は葛切り、葛練りなどのお菓子になり、葛粉に湯を注げば、葛湯となる。重労働のたいへんな仕事である。根の皮をはいで、干したものは薬用で、葛根といい、血行をよくし、血糖値を下げ、解熱の作用がある。

つるから繊維をとり、葛布がつくられた。つるを煮てから、土にうめておくと、繊維がとれる。この繊維は縄文時代から葛布に利用された。静岡県の掛川市は葛布の産地として鎌倉時代から知られる。1826年に長崎から江戸に旅をした有名な医者であり、植物学者でもあるシーボルトは、掛川で葛布をつくるために、里の人がクズのつるを刈っているようすを記録している。この布は、現在は高級な壁紙に利用される。ほかに、つるや葉は家畜のえさとしても利用される。

俳句の季語では、「葛若葉」を晩春を表すときに用い、「葛の花」は初秋を表すときに用いる。ほかに秋の季語として、「葛かずら」「真葛」「葛の葉」を使う。

やせ地にも育ち、土砂が雨で流されるのを防ぐ働きがあるので、砂漠の緑化に使われる。中国の砂漠に日本のクズを植える努力が鳥取大学の遠山先生を中心に行われた。クズ属の植物はアジアの熱帯を中心に35種ある。日本には2種知られ、タイワンクズが沖縄県にある。インドクズやネッタイクズは、クズに似た姿の植物で、食べものや家畜の飼料に利用される。