リンドウ
Gentiana scabra Bunge var. buergeri (Miq.) Maxim.
リンドウ科 合弁花 多年草
分布 本州〜九州
高さ 20〜100cm
花の時期 9〜11月

何といっても高原の秋空に映えて咲く青紫の鐘形の花がリンドウのシンボルであろう。花は、茎の先や上のほうの葉のわきに1〜数個つき、長さ3.5〜5cm、先は浅く5つに裂け、裂片は日がさせば平開し、くもれば閉じる。だから開ききったリンドウの花に出会う機会は少ない。閉じたときやつぼみのときの花冠は上から見ると決まって左巻きにたたまれるのもおもしろい。リンドウのなかまは、花冠の5つの裂片の間に副片と呼ばれる第二の裂片があるのが特徴だが、リンドウの花冠の副片は三角形で、花冠の裂片のほぼ3分の1ほどの高さがある。

茎はたいてい紫褐色を帯び、4本の細い盛り上がったすじがあり、数段の対生する葉をつける。葉に柄はなく、葉身には基部からのびる3本の脈が目立ち、ふちはざらつくだけで鋸歯がない。冬に霜に当たって褐色になっても葉は落ちずに垂れ下がり、花が終わってもしおれたがくや花冠は果実を包みこんだまま離れない。果実は、熟すると花冠からつき出て先が2つに裂け、風にゆられてたくさんの細かい種子を飛び散らす。種子の両端に短い尾がついているのも重要な特徴だ。

低山から亜高山の日当たりのよい草地に、三三五五とかたまって生え、ときには枯れ草のなかにぽつんと咲く姿も見かける。北海道をのぞいて日本各地に広く分布している。群生することはないが、草丈は中くらいで目立った花をつけるので、花の時期には見逃すことはない。ただ、エゾリンドウやオヤマリンドウとの見分けがむずかしいことがあるので注意したい。花の前には茎や葉の性質で見分ける必要がある。

リンドウという名は漢方薬の竜胆から来たもので、本来の竜胆はトウリンドウのかわかした地下茎や根をいい、花をさすわけではない。トウリンドウは東シベリア・中国東北部・朝鮮半島に分布していて、リンドウに比べて葉のふちの突起がいちじるしいくらいのちがいしかなく、同種としてあつかわれる。ともに地下部は噛むととても苦く、古くから胃腸薬として使われて来た。

学名のGentiana(ゲンチアナ)は、ヨーロッパのイリリアという国のゲンチウス王にちなんだもので、王はすでに紀元前2世紀ごろ、ヨーロッパ産のキバナリンドウの薬の効き目を知っていたといわれる。日本にもリンドウの効き目を伝える伝説がある。昔、小角という行者が、日光の山奥でウサギが雪をかき分けて草の根を掘り出しているのを見、ウサギにたずねたところ、病気の主人のためにもち帰るのだという。小角も同じ草の根を掘ってもち帰り、病人に試したところすばらしい効き目が現れたというのである。秋に根を掘り日干しにし、1日2〜3gを煎じて飲めばよい。しかし、近年は高原の草花はおしなべて減少しているので、山採りは止め、種子から育てて使いたい。

文芸の世界では、奈良時代の『出雲風土記』以後、古典にも和歌にもよく登場する。『源氏物語』の「野分」の項に「わらはべなどをかしき袙すがたうちとけて 心とどめ とりわき植えたもう竜胆……」と記されているのを見ると、平安時代にすでに栽培されていたことがうかがえる。今では、リンドウやシロバナリンドウが好まれるほか、遅咲きのオクシナノや地上をはうように生える小型のシンキリシマなどの園芸品種も出まわっている。秋の生け花の材料としても重要であるが、切り花として使われるのは、花つきのよいエゾリンドウのほうが断然多い。エゾリンドウは、茎は緑色、花は1本の茎に5〜20個もつき、花冠の副片は低くて目立たないことが特徴。やはり高原の草地や湿地に生え、中部地方以北に分布している。オヤマリンドウは亜高山から高山まで、より高地に生え、花は長さ2〜3.5cmと小さく、1〜7個がふつう茎の先にだけつき、花冠の裂片はめったに開かない。東北〜中部地方および四国に分布している。