海藻とは何か
What are seaweeds?
●海藻との再会

 人間は、日常生活を陸上で営んでいるために、海の中の世界のことを忘れがちである。しかし、陸と海とは生物学的にも生態学的にもそして環境学的にも切っても切れない関係にあり、海について理解を深めていくことが、すっかり狭くなった地球に住むこれからの人類に求められている。
 われわれ人類の祖先がまだ海の中で暮らしていた太古、きっと海藻は身近な「植物」だったに違いない。天気が良い日は、潮がよく引く時間を選んで海岸に出掛けてみよう。海藻があなたとの再会を待っている。

潮間帯

潮間帯は陸でもあり、海でもある。干潮になると色取り彩りの海藻が姿をあらわす。


●海藻はここにいる

 海藻が生きていくためにまず必要なものは、光と海水である。従って、海水面が達しない陸上や太陽光が届かない深海では海藻は生育できず、垂直分布は海岸線付近の数mから数kmの幅の海底に限られている。しかし、海岸域はちょっとした高さの違いで環境が激変する場所なので、豊富な海藻種がひしめき合うように現れ、しばしば変化に富んだ帯状分布を形成する。

 海岸は低潮線(もっとも潮が引いたときの海面)と高潮線(もっとも潮が満ちたときの海面)によって大きく3つに区分できる。

○飛沫帯(潮上帯):高潮線から上の範囲。常に海上に位置するが、波しぶきが届く。

○潮間帯:高潮線と低潮線の間。満潮の時は海であり、干潮になれば陸になる、変化の激しい場所。高さによって大気にさらされる時間のながさが異なる。

○漸深帯(潮下帯):低潮線より下の範囲。常に海面下にあり、環境が安定している。

 また、岩礁の潮間帯には多数のタイドプール(潮だまり)が存在する。潮の干満に関係なく常に海水が満たされている場所である。

潮間帯には、乾燥に耐える海藻種が生育する。イシゲ、イロロ、イワヒゲがみえる。(静岡県下田)
タイドプール。フジマツモが生育している(北海道厚岸)
漸深帯のウミウチワ(中央)
(静岡県下田)


●「海藻」の定義

実際になにを指しているかを考えたとき「海藻」はかなり曖昧な言葉である。「海にすむ藻」といっても、この「藻」が簡単ではない。日常的には、「水中に生活し、独立栄養を営む葉状植物の総称」(三省堂「大辞林」1988年)として差し支えないが、生物学的には「光合成の過程において酸素分子を放出する生物から有胚植物を除いたもの」(「生物学辞典第4版」1996年)のように厳密に定義されるようになりつつある。具体的には、「藻」類は陸上植物・光合成細菌以外の光合成生物すべてを含んでいることになる。
 しかし、古来日本人が「海藻」と呼んできたのは、肉眼的な大きさの大型底生海産藻類(marine benthic macro-algae)であって(特に食用となる藻類)、珪藻や渦鞭毛藻に代表される単細胞性の植物プランクトンまでも「海藻」と呼んでよいかどうかは意見の分かれるところである。肉眼的な体を持つ種を含む海産の藻類グループには、本ページが扱う緑藻、褐藻、紅藻の主要3グループの他に、少数ながら藍藻(らんそう)類が知られている。

光合成

葉緑体は、光エネルギーを利用して水から電子エネルギーを得る過程で酸素分子を発生する(明反応)。電子エネルギーはATPとNADPHを経て、二酸化炭素から有機物を合成するのに使われる(暗反応)。


●海藻と海草

 海中に生育し、名前の語尾に「モ」がつくので紛らわしいが、海草類(seaglass)は陸上の主な緑色植物と同様に立派な花や根を有している被子植物であり、海類藻(seaweed)とは明瞭に区別される。日本の沿岸には、アマモZostera marina、スガモPhyllospadix iwatensis、ウミヒルモHalophila ovalisなどが分布している。これらの海草は砂地に群生してアマモ場をつくることが多い。
 海草は陸上で維管束植物を手に入れながら海に帰ってきた、クジラに似た境遇の植物といえる。

スガモ
(北海道厚岸)


●海藻御三家

陸上の植物は小さなコケや草から大樹までみな緑色の葉をつけるので、植物というのは緑の生き物であると思いこみがちである。これは陸上植物のすべてが緑色の葉緑体をもっているからである。ところが、海洋では植物の色は緑とは限らない。
 海藻は、主に緑藻類、褐藻類、紅藻類の三大グループからなる。それぞれの名が体をあらわしており、細胞内の葉緑体の違いに由来している。アオサ、ミルなど
緑藻類の葉緑体の色素組成は陸上植物と基本的に同じで、例えばクロロフィルはaとbを持っている。従って緑藻類は陸上の草花と同じグループの生き物と考えて差し支えない。
 一方、ワカメやヒジキなど
褐藻類の葉緑体はクロロフィルaとcに加え、フコキサンチンなどの補助色素を含むために、黄色から茶色の体をつくる。このため褐藻類は、植物プランクトンになる珪藻類や黄金色藻とともに黄色植物(ストラメノパイル)に分類されると考えられている。褐藻類は海洋で繁栄に成功した植物であり、ジャイアントケルプを含むコンブ類やサルガッソ海で知られるホンダワラ類などが、しばしば海中林や藻場(もば)を形成する。海中林は魚介類に直接・間接に食料をもたらすと同時に、住居空間と産卵・保育場所を与えている。
 また、アマノリ類やテングサ類などの
紅藻類ではクロロフィルはaのみで、フィコシアニンなどの補助色素があるために、赤い色の体をつくる。
 海洋植物にはこの3グループ以外にも植物プランクトンを中心に系統学的に起源が異なるいろいろなグループが含まれている。陸上植物が緑色なのは、たまたま緑色植物の系統だけが淡水環境を経て、上陸できたからにすぎないのである。

地球上の生物の分類

今日、生物は細胞の構造やDNA塩基の配列を比較することによっていくつかのグループ(界)に分類される。
 まず、細胞内のDNAのありかである核の構造に着目して、核膜を持たない細菌生物(圏)と、核膜を持つ真核生物(圏)とに大別することができる。
 真核生物にはとりわけ大きなグループとして、植物界、黄色植物界、動物界、菌界がよく知られているが、近年これら以外にも界に相当するグループが検討されている。
 酸素発生型の光合成を行う生き物を「植物」とみなすと、「植物」は多くのグループ(界)のなかで生じている(
のついた生物群)。

緑藻
(タンポヤリ)
褐藻
(ヒジキ)
紅藻
(ジャバラノリ)


●海藻生態写真集 
アカバ
アナアオサ
アヤニシキ
アラメ
イロロ
イワヒゲ
ウミウチワ
ウミトラノオ
エゾイシゲ
シワノカワ
ヒジキ
ムチモ

●参考文献紹介

 Cavalier-Smith, T. 1995. Membrane heredity, symbiogenesis, and the multiple origin of algae. In R. Arai, M. Kato and Y. Doi (eds.), Biodiversity and Evolution. p.75-114., National Science Museum Foundation, Tokyo.
 千原光雄(編著) 1997.「藻類多様性の生物学」内田老鶴圃.
 岡村金太郎(著) 1936.「日本海藻誌」内田老鶴圃.
 黒沼勝造 1985. 岡村金太郎先生. 採集と飼育, 第47巻4号:176-180.
 瀬川宗吉(著) 1956.「原色日本海藻図鑑」保育舎.
 徳田廣・大野正夫・小河久朗(著)1987.「水産養殖学講座第10巻 海藻資源養殖学」緑書房.
 横浜康継・野田三千代(著)1996.「海藻おしばーカラフルな色彩の謎ー」海游舎.
 吉田忠生(著) 1998. 「新日本海藻誌」内田老鶴圃.