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 ネンジュモ目の藻を属レベルで分類するためには、異質細胞がトリコームのどこに形成されるか、つまりトリコームの片側に偏っているか両側に形成されるかまたは中間部に形成されるかを確かめなければならない。さらに、アキネートはトリコームのどこに形成されるか、アキネートと異質細胞が接しているか、栄養細胞にはガス胞があるか、トリコームの形は先端部と中央部で同じかどうかなども確認しなければならない。栄養細胞のみのトリコームでは属レベルの分類は行うことができない。

 種レベルの分類では、栄養細胞の形と大きさ、アキネートの形と大きさ、トリコームの形と大きさなどを確かめなければならない。アキネートが観察できないと、種レベルの同定を行うことはできない。採集の時期を変えてアキネートを観察するか、培養してアキネートの形成を誘導するかしないと、種は分からないのである。アキネートの観察と大きさの測定は、十分に成熟したもので行う必要がある。

 上記のような形態的な特徴に生態的特性と遺伝情報の解析結果とを組み合わせた研究の進展により、これまでアナベナ属(広義のアナベナ属)とされてきた多くの種は、(狭義の)アナベナ属(Anabaena)、トリコルムス属(Trichormus)、ドリコスペルマム属(Dolichospermum)およびスファエロスペルモプシス属(Sphaerospermopsis)の4属に分けられる。これらのうち、アナベナ属とトリコルムス属は栄養細胞にガス胞がなく、付着性である。アオコを形成しない。また、これまでのアファニゾメノン属(広義のアファニゾメノン属)は(狭義の)アファニゾメノン属(Aphanizomenon)とクスピドスリクス属(Cuspidothrix)に分けられる。両者とも浮遊性である。

3-1 ドリコスペルマム属 Dolichospermum

 トリコームはまっすぐか、規則的かやや不規則ならせん形、または不規則に曲がり絡み合っている。栄養細胞にはガス胞がある。異質細胞は球形または楕円形で、栄養細胞とほぼ同じ大きさで、トリコームの中間に形成される。アキネートは球形、楕円形、円筒形で、幅も長さも栄養細胞や異質細胞より大きく、異質細胞の近くにできる。

3-2 スファエロスペルモプシス属 Sphaerospermopsis

 トリコームはまっすぐか、または規則的かやや不規則ならせん形である。栄養細胞にはガス胞がある。異質細胞は栄養細胞とほぼ同じ大きさの球形で、トリコームの中間に形成される。アキネートは球形で、栄養細胞や異質細胞より明らかに大きく、異質細胞の両側または片側に必ず隣接してできる。

 以下にドリコスペルマム属(Dolichospermum)とスファエロスペルモプシス属(Sphaerospermopsis)の日本でみられる種について、形態の比較一覧表を示す。

種名 トリコームの形態 細胞の形態 アキネートの形態 異質細胞とアキネートの位置関係
D. affine 直線状・束状群体 球形・樽型 楕円形・長楕円形 離れている
D. akankoense 不規則らせん形 レモン型 円筒形、多少曲がる 近い
D. circinale 規則的らせん形 球形・樽型 楕円形・円筒形 離れている
D. citrisporum 直線状 球形・樽型 レモン形 近い
D. crassum 規則的らせん形 球形・樽型 広楕円形 離れている
D. flos-aquae 不規則らせん形・絡み合う 球形・樽型 円筒形、多少曲がる 離れている
D. lemmermannii 不規則らせん形・絡み合う 球形・樽型 円筒形、多少曲がる 隣接する
D. macrosporum 直線状 球形・樽型 広楕円形・円筒形 離れている
D. mendotae 不規則らせん形・絡み合う 短円筒形 円筒形、多少曲がる 離れている
D. minisporum らせん形 球形・樽型 球形 離れている
D. mucosum 不規則らせん形 球形・樽型 球形 離れている
D. planctonicum 直線状 球形・樽型 広楕円形・円筒形 離れている
D. pseudocompactum 密な規則的らせん形 球形・樽型 長楕円形、多少曲がる 離れている
D. smithii 直線状 球形・樽型 球形 離れている
D. spiroides 規則的らせん形 球形・樽型 長楕円形、多少曲がる 離れている
D. ucrainicum 規則的らせん形 球形・樽型 球形 離れている
D. viguieri 直線状 球形・樽型 広楕円形・円筒形 離れている
S. aphanizomenoides 直線状 短円筒形・樽型 球形 隣接する
S. kisseleviana 直線状 球形・樽型 球形 隣接する
S. oumiana 規則的らせん形 球形・樽型 球形 隣接する
S. reniformis 密な規則的らせん形 腎形・球形 球形 隣接する

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(新山・辻 2013より)

 以下の種は日本での観察が限られており、上記の一覧表に含めていない。

3-3 アナベノプシス属 Anabaenopsis

 トリコームは単独で浮遊する。栄養細胞にはガス胞がある。トリコームの中央部の隣り合う2つの細胞がそれぞれ分裂し、隣接する側に形成された細胞が異質細胞に分化する。したがって一時的にトリコームの中央部に異質細胞が2個並んで形成されるが、トリコームは2つの異質細胞が接する部位で分断するため、トリコームはその両端に異質細胞をもつことになる。アキネートは楕円形または円筒形で栄養細胞より大きく、異質細胞から離れて1個または2個または数個連続してできる。本邦ではA. arnoldii AptekarおよびA. circinalis (G.S.West)Wołosz. et V.V.Mill.が報告されているが、大発生したという記録はない。

3-4 アファニゾメノン属 Aphanizomenon

 トリコームは糸状で浮遊する、単独であることはまれで多数集合して束を形成する。トリコームはまっすぐかゆるく曲がり、全長を通じて同じ幅または先端部がやや細くなるが、先端は円いか平坦で針状にならない。栄養細胞は円筒形、ガス胞がある、先端細胞はやや長い。異質細胞は円筒形または楕円形、栄養細胞とほぼ同じ幅である。アキネートは介生的、円筒形で栄養細胞より長く、異質細胞から離れて形成される。

3-5 クスピドスリクス属 Cuspidothrix

 トリコームは糸状で単独で浮遊する。トリコームはまっすぐかゆるく曲がり、先端に向かって段階的に細くなり、尖って終わる。栄養細胞は円筒形、ガス胞がある、先端細胞は明らかに細く尖っている。異質細胞は円筒形または楕円形、栄養細胞とほぼ同じ幅である。アキネートは介生的、円筒形で栄養細胞より長く、異質細胞から離れて形成される。本邦では今のところC. issatschenkoi (Usacev) Rajaniemi et al.だけが報告されている。

 以下にアファニゾメノン属(Aphanizomenon)とクスピドスリクス属(Cuspidothrix)の日本でみられる種について、形態の比較一覧表を示す。

種名 群体の形態 トリコームの形態 トリコーム先端細胞 アキネートの形態 アキネートの長さ
A. flos-aquae 大きな束状群体・紡錘形 ほとんどまっすぐ 長円筒形 長円筒形 約24-55μm
A. klebahnii 小さな束状群体 ほとんどまっすぐ 円筒形 長円筒形 約18-31μm
A. paraflexuosum 単独・群体を作らない ゆるく曲がる 円筒形 長円筒形 約45-72μm
A. yezoense 緩い束状群体 ほとんどまっすぐ 円筒形 長円筒形 約31-49μm
C. issatschenkoi 単独・群体を作らない ほとんどまっすぐ 先端細い針状 円筒形 約9-15μm

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3-6 シリンドロスペルモシス属 Cylindrospermopsis

 トリコームは短い糸状で単独で浮遊する。トリコームはまっすぐからせん状に湾曲する。栄養細胞は円筒形でガス胞がある。異質細胞は必ずトリコームの末端に形成され、円筒形または長い円錐形。アキネートは円筒形で異質細胞から離れて、または隣接して形成される。本邦ではC. curvispora M.Watan.とC. raciborskii (Wołosz.) Seenayya et S.Rajuの2種が報告されている。どちらも大発生してアオコを形成することがある。またシリンドロスパーモプシンやアナトキシンといった毒素をつくることも知られている。

3-7 グロエオトリキア属 Gloeotrichia

 トリコームは基部に異質細胞があり、先端部に向かって細くなり、毛状になって終わる。トリコームが異質細胞をもつ基部を中心にして放射状またはまばらに集合し、球形または半球形の群体をつくる。アキネートは異質細胞に隣接する。本邦ではG. echinulata (J.E.Sm. et Soverby) P.G.Richit.が報告されている。

3-8 ラフィディオプシス属 Raphidiopsis

 トリコームは単独で浮遊する。トリコームはまっすぐか湾曲し、両端に向かって細くなるが毛状になることはない、粘質の鞘をもたない。異質細胞をつくらない。アキネートはトリコームの中央部に形成される。本邦ではRaphidiopsis curvata F.E.Fritschet M.F.Richが記録されている。

3-9 ウメザキア属 Umezakia

 トリコームは単独で浮遊し、先端に向かってやや細くなる。栄養細胞にはガス胞があり、異質細胞とアキネートはトリコームの中間部に形成される。培養中に分枝を形成したことから、当初スチゴネマ目で唯一の浮遊性種としてU. natans M.Watan.が報告された。ところが、その後行われた遺伝子解析によって、本種がネンジュモ目の1グループに含まれること、しかしドリコスペルマム属、スファエロスペルモプシス属、クスピドスリクス属、ノデュラリア属などから明瞭に区別されることが明らかとなった。形態的には、分枝がない状態では広義のアファニゾメノン属と、さらに異質細胞がなくアキネートをもつ状態ではラフィディオプシス属と区別することは難しい。今のところ、U. natans1種のみが知られており、日本以外からの報告はない。

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