標本資料センター

国立科学博物館のコレクションに関する基本方針

平成28年3月25日
館長裁定

最終改正
令和7年4月1日
館長裁定

国立科学博物館は、自然史及び科学技術史の中核的研究機関として、日本を軸として自然と科学技術に関する理解を推進する研究を行う機関である。また、我が国の主導的な博物館として、調査研究や標本・資料の収集を通じて蓄積された知的・物的資源を、展示・学習支援事業等により広く社会に還元する機関でもある。従って、そのコレクションは、日本を代表するナショナルコレクションとして、広い範囲から収集され続け、海外にも誇れる数と質を持つべきである。日本各地に存在する博物館や大学等とも連携しながら、ナショナルコレクションを構築、継承していくとともに、先人によって収集・研究された貴重な標本・資料・リビングコレクションの散逸を防ぐセーフティネットとしての機能の一翼を担う必要がある。

当館のコレクションは、地球や生命、科学技術に対する理解を深め、人類と自然、科学技術の望ましい関係について考える研究の基盤となる物的資料であると同時に、研究結果を保証する物的証拠である。また、展示・学習支援事業に活用し、人々の科学リテラシーの向上に資するための資料である。これまで蓄積してきた標本・資料に関する膨大な情報、すなわちビッグデータを包括的に解析することで、日本の自然史を読み解くデータサイエンスへの応用も可能となる。従って、これらの活動を支える標本・資料等をコレクションとして、直接の収集に加え、必要に応じて寄贈の受入れや購入等を通じて体系的に構築し、他の機関とともに、人類共通の財産として将来にわたって確実に継承していくことが求められる。さらに、構築されたコレクションは、その利活用を推進し、新しい価値を見出したり、新たな意義を発見し、得られた情報が社会に広く広報・共有されていくことが期待される。

T コレクションの構築

我が国の自然史及び科学技術史の中核的研究機関としての当館が収集対象とする主要なコレクションは、自然史に関する標本・資料・リビングコレクションや科学・技術・産業の歴史に関する科学技術史資料であり、その種類は動物、植物、菌類、岩石・鉱物、化石、人骨標本及び科学技術史資料等、多岐にわたるものとする。

コレクションの主な収集地域は、自然史標本・資料・リビングコレクションにおいては国内及び東アジアから東南アジア地域、海洋においては主に日本列島周辺海域及び西部北太平洋であり、科学技術史資料においては主に日本国内とするが必要に応じて国外資料も対象とする。

コレクションの主な収集は、基盤研究や総合研究等の研究計画に従い、各担当分野の研究員及び支援研究員等が進める。

標本資料センターでは、当館の強みを伸ばし弱みを補強できるよう、各研究部・センターと連携して、従来収集されたことのない地域・時代での資料収集や、当館において収集されていない分類群のコレクションの充実を図る。また、自然史系標本セーフティネットを通じた博物館、大学等研究機関、研究者、個人収集家等からの寄贈の受入れを行う。

科学技術史資料については、博物館、大学等研究機関、研究者、個人等からの寄贈資料の受入れを行う。さらに産業技術史資料情報センターでは、業界団体や学会、企業等と協働し産業技術史資料の所在地情報を収集し、得られた情報をホームページ等で公表することにより歴史的資料の保存を推進する。

学術的に貴重な有価標本・資料・リビングコレクションに関しては、該当分野研究員と標本資料センター等で学術的価値と価格を評価した上で購入する。

1. 研究分野ごとの構築方針(主に担当する研究部・センター)

1)動物研究分野(動物研究部)

日本の生物のインベントリー構築に向け、日本とその周辺地域・海域に生息する動物を主たる対象として、フィールドワークを中心に標本の収集を行う。

コレクションの構築が十分でない分類群や未収蔵産地の標本の収集に重点をおき、当館に専門家が不在の分類群については、国内外の博物館や研究機関等と連携し、外部研究者との協力や寄贈の受け入れ等により収集を進める。

すべての日本産の種の分類・系統・DNA等の情報の集約を目指し、画像等のコレクションの充実にも取り組んでいく。

日本の動物相及び生物多様性を理解し、その起源の探求や保全のために必要となる、日本周辺のアジア諸国を中心とした世界各地からの標本収集も視野に入れ、コレクション構築を進める。

2)植物研究分野(植物研究部)

日本および周辺アジア地域の生物のインベントリー構築に向け、動物以外のあらゆる真核生物と一部の原核生物、すなわち種子植物、シダ植物、コケ植物、藻類、地衣類、菌類等を対象に標本・資料を収集する。

フィールド調査や交換標本などにより, 特に未収蔵分類群や未収蔵産地の標本の収集を優先的に行うとともに、国内外の博物館や大学等と連携し、日本および周辺アジア地域の種の分類・系統、DNA、代謝産物等の情報を集約することを目指す。

日本および周辺アジア地域の植物や菌類等を含む生物多様性や共進化の理解のために、国内外の博物館、大学、植物園等と連携して、植物・菌類(全分類群)を対象とした収集を行う。

種子植物とシダ植物については、特に日本の絶滅危惧植物と固有種を中心に収集・栽培された生きた植物(リビングコレクション)を使って、生物学的特性を明らかにすることにより、これらの保全のための基本的情報を得る。

3)地学研究分野(生命史研究部・理学研究部)

日本列島の岩石鉱物を中心に、さらに、主に周辺地域を視野に入れて収集する。未収蔵産地や新種の標本の収集を積極的に行うとともに、国内の博物館や大学等と連携し、全ての日本産の鉱物の標本情報を把握することを目指す。

地質時代を通した生命進化史と環境変動史との関係を明らかにするために、日本列島及びその周辺地域から動植物化石、微化石等を収集するとともに、個人や大学等が保管する化石コレクションの受入れを積極的に行う。

国際的な組織である微古生物標本・資料センター(MRC)のアジアを代表する拠点として活動するとともに、国内の大学や研究機関と連携して微化石等の組織的収集を図る。

4)人類研究分野(生命史研究部)

人類の進化や起源・拡散を知るために重要な化石標本を収集する。特に持ち出しが制限されている国外の標本については、精巧なレプリカやCTスキャン装置等によって取得される3Dデータも収集対象とする。

全国各地の教育委員会等と連携し、日本列島集団の形成過程や集団の生活史を明らかにするために必要な旧石器時代から江戸時代までの古人骨等を収集する。

5)理工学研究分野(産業技術史資料情報センター)

日本の科学・技術・産業の足跡を保存し、その持続的発展に寄与するため、それらに関わる資料や情報を系統的に収集する。産業技術史資料については、資料収集だけでなく所在調査を行うなど社会的に重要な資料保全への取組を推進する。

2. 遺伝資源コレクション

分子生物多様性研究資料センターにおいて、日本に生息・生育する生物を中心に、組織サンプル、抽出DNAサンプル、証拠標本およびDNA塩基配列データを統合的に収集・保管・管理することで、DNA 研究を推進するコレクションの充実を図るとともに、関連分野研究者の利用に供する体制を構築する。

筑波実験植物園では、圃場、組織培養施設等を利用し、絶滅危惧植物と日本固有植物を中心とした生息域外保全を推進し、野生復帰等に利用可能な植物個体の確保に努める。

3. 国際条約等の遵守

標本・資料等、とくに遺伝資源(生物標本を含む)を取得・利用する際には、「野生動植物の種の国際取引に関する条約」、「生物の多様性に関する条約」及び「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」等の、関連する条約・法律・条例等を遵守する。

遺伝資源の利用に伴う利益については、遺伝資源の提供国や他の利害関係者と公正かつ衡平に配分する。詳細については別途定める。

4. 自然史系標本セーフティネットを通じた受入れ

大学や博物館等で保管が困難となった自然史系標本・リビングコレクションのなかで、ナショナルコレクションとして永続的な保管が必要とされる標本等については、その散逸を防ぐために自然史系博物館が連携して構築した自然史系標本セーフティネットの運営等を通じて積極的な受入れを図る。

国内の植物園で維持が困難となった系統保存されていた絶滅危惧種など重要コレクションについては、緊急避難として受け入れ、保全を図る。

5. 理工系博物館等のネットワークを通じた受入れ

理工系博物館や大学、各種研究機関、企業、個人等で保管が困難となった理工系資料のなかで、ナショナルコレクションとして永続的な保管が必要とされる資料については、その散逸を防ぐために理工系博物館等のネットワークや学会、業界団体等の連携等を通じて積極的な受入れを図る。

U コレクションの保存

コレクションの保存方法は標本・資料によって異なるが、全ての標本・資料等は良好な状態で永続的に保存しなければならない。リビングコレクションについては、枯死をできるだけ防ぐように努めなければならない。

コレクション管理担当者(注1)は標本・資料室・栽培圃場の適切な環境維持・管理に留意し、保存科学研究の成果を取り入れるなど様々な工夫を行うとともに、標本・資料・リビングコレクションを円滑に利用できる体制を整える。

質・量ともに充実したナショナルコレクションを適切に保存するため、それぞれの分野ごとの特性を考慮しつつ、必要な収蔵スペースの確保を図るものとする。その際、展示機能を併せ持つ収蔵施設の整備を図るなど、標本・資料・リビングコレクションの公開についても留意する。

「自然史系標本セーフティネット」を加盟組織と連携して運営し、日本に存在する価値あるコレクションの逸失を避ける。

「植物多様性保全拠点園ネットワーク」の中核として国内の植物園等と連携し、絶滅危惧種など日本の重要なコレクションを系統保存する。

※注1:コレクション管理担当者とは、当館規程「独立行政法人国立科学博物館研究員が分担して収集、整理及び保管を行う資料の範囲」において定める、標本・資料・リビングコレクションの収集、整理及び保管を行う者を指す。

V コレクションの利用と活用

館内外の研究、展示及び学習支援活動等に当館のコレクションを利用できるものとする。コレクションの利用にあたってはコレクション管理担当者の指示に従うものとする。

標本・資料・リビングコレクションの状態や保存数等によって、利用を制限する場合がある。

コレクションの貸出、交換及び譲渡の方法は別途定める。

コレクションの利用と活用のため、収集された標本の検討や既存の標本の再検討などによって、新知見の取得に務めるとともに、利用・活用を推進し、標本・資料のもつ価値の最大化を目指す。また、標本の形態や採集情報ばかりではなく、新しいタイプのデータを総合的に取得・利用することに取り組む。

W コレクション情報の発信

さまざまなデータをもとに、国内を代表する科学系デジタルアーカイブの構築を目指し、標本そのものだけでなく、情報レベルでの利用・活用を推進する。また、ジャパンサーチや、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)など、外部のデジタルアーカイブ等を通じて科学コミュニティや社会に発信し、オープンサイエンスの推進に資する。

当館で所有する標本・資料・リビングコレクション等に関する情報のデジタル化を進め、標本・資料統合データベース等の公開ウェブページおよび公開データを充実させ、積極的に発信する。ただし、標本・資料・リビングコレクションの性質や管理上の事情等によって公表する情報に制限を設ける場合がある。

自然史標本情報の公開においては、当館の標本等の情報のみならず、全国の科学系博物館等との連携のもと、サイエンスミュージアムネット(S-Net)の運営等を通じて標本等の所在情報を横断的に検索できるシステムの充実に取り組む。

産業技術史資料については、企業、個人、科学系博物館等で所有している資料等の所在調査とデータベースの充実・公開に取り組み、各機関等との役割分担のもと、社会的に重要な資料の保存と活用を推進する。

標本の重要性や、標本の維持管理・利活用への注力について広報する仕組みを構築する。

X コレクションの廃棄

コレクションの中に甚だしい損傷を受けた標本・資料や死滅したリビングコレクションが発見された場合、採集情報等の標本・資料等に関わる重要な情報の付与が不可能な場合等には、当該の標本・資料等の学術的価値は著しく滅失しているものと認められる。このような場合には、コレクション管理担当者は所定の手続きを経て標本・資料等を廃棄することができる。

Y その他

この基本方針は中期計画の作成等に合わせ、必要な見直しを行うものとする。