2009-12-15

2010年帰還へ 探査機『はやぶさ』の軌跡


ある探査機の遥かな旅

 2003年5月9日,鹿児島県旧内之浦町(現・肝属郡肝付町)。日本の固体燃料ロケットM-V-5号機が打ち上げた工学実験探査機を覚えていますか?
 開発名称はMUSES-C。大きさは本体部分がおよそ1メートル×1.6メートル×1.1メートル。太陽電池パドルを展開すると端から端までの幅が約6メートル。質量は燃料も含めて510kg。以前ここでご紹介したHTVよりも,アメリカのスペースシャトルよりも,地球の静止軌道上で現在運用中の気象衛星ひまわり6号(燃料込み3.3トン)よりもずっと小さな探査機ですが,約2年4ヶ月の後には地球から約3億2000万キロメートルに達し,ある小惑星に着陸,サンプル採集を試みた後離陸して,現在地球への帰途にあります。

 少し意地悪な訊き方だったかも知れませんが,もうお解りですね。文部科学省宇宙科学研究所:ISAS(当時。現・独立行政法人宇宙航空研究開発機構:JAXA)の第20号科学衛星『はやぶさ』。 11月初めにエンジントラブルが発生し,一時帰還が危ぶまれましたが,JAXAスタッフの方々の粘り強い運用努力が奏功し,12月10日現在,地球に向かって加速を続けています(地球までの距離は約1億キロメートルです)。

 今年最後となる今回のホットニュースでは,帰還運用の再開を祝いながら,順調に行けば来年,2010年夏に地球に戻って来る予定の『はやぶさ』のこれまでとこれからを,纏めてお伝えします。




 小惑星からサンプルを持ち帰りたい ― その計画の始まりは『はやぶさ』打ち上げの10年以上前に遡ります。

 小惑星とは太陽系内にある天体のうち,太陽自体や惑星・準惑星・彗星を除いた比較的小さなものの総称です。太陽系の形成についてはここでは割愛しますが,小惑星や彗星は太陽系が誕生した際,惑星に成長したり取り込まれたりすることなく取り残された,謂わば残骸のような天体です。太陽系形成当時の情報は,惑星上では大気やプレートなどの運動によって掻き乱され,やがて失われてしまいます。一方で小惑星や彗星では,情報を乱す原因が少ないため,より多くの情報が残されいることが期待されます。

 小惑星まで探査機を飛ばし,構成物質を採取して地球に持ち帰る。計画が最初に俎上に載せられた1980年代中盤当時,日本は国内としては初めての惑星間空間探査機『さきがけ』をハレー彗星に向けて打ち上げることに成功したばかりでした。惑星間空間探査機とは,地球の軌道から離れ,太陽の周りを回る軌道に乗る探査機のことで,他の惑星や彗星,そして小惑星の探査を目的とします。
 その技術を初めて手にしたばかり,しかも彗星より遥かに遠方の小惑星に向かう為には経験も,ロケットの打ち上げ能力そのものも足りないこの段階での計画は,探査プロジェクトとして立ち上げるには,未だ時期尚早でした。

 しかしそこから,惑星間飛行や小惑星とのランデブーなど,技術開発とその試験を目的とした工学衛星計画としてMUSES-Cは具体化されて行きます。
 『はやぶさ』が実現を目指し,実際に搭載された技術は大きく分けて4つ。第1はイオンエンジンをメインの推進機関としての惑星間航行。次に,『はやぶさ』自身が周囲の状況を光学的に観測しての,自律的な航法と誘導。そして,小惑星表面からの物質の採取。更には,惑星間軌道から地球の大気圏への直接再突入によるサンプルの回収です。
 目的地となる小惑星は打ち上げのタイミングなどに合わせて何度か変更されましたが,最終的に1998年に発見された小惑星1998SF36に決定されました。1998SF36はその後,日本のロケット開発の先駆者として知られる故・糸川英夫博士に因み『イトカワ』と命名されています。

図:『はやぶさ』のイメージイラスト(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))
参考:JAXAホームページ
『はやぶさ』プロジェクトサイト・『はやぶさ』物語・宇宙研物語・JAXAプレスリリース