2013-07-18

最古の霊長類の全身骨格化石が発見された!− 中国で発見されたメガネザルの仲間の化石


研究結果がイギリスの科学雑誌ネイチャーに掲載されました!

 今年6月5日に、真猿の起源に関連するあらたな化石資料についての研究結果が、イギリスの科学雑誌ネイチャーに発表されました。日本国内ではそれほど大きな話題とはなりませんでしたが、一部の新聞などに記事が掲載されましたので、ご覧になった方もおられることでしょう。この研究は、中国・北京の中国科学院古人類及古脊椎動物研究所(IVPP)の倪喜軍(NI Xijun)博士らの研究グループによるもので、中国・湖北省で10年前に発見されていた、約5500万年前の霊長類全身骨格化石資料の分析結果が報告されています。体長10cmほどの小型の霊長類の全身骨格からなっていて、非常に保存状態が良いため細かな特徴まで観察することができました。「アーキケブス・アキレス(Archicebus achilles)」と命名されたこのサルは、全体的な特徴からオモミス類と同定されましたが、かかとの骨の形などに真猿類的な特徴も見られるので、それにちなんで種小名は「アキレス」となったのだそうです。

 この化石資料を研究するにあたり、倪博士は化石をフランスのグルノーブルまで持っていき、シンクロトロン放射X線によるマイクロCT装置で断層撮影して復元を進めたということです。なにしろ化石は非常に小さいですから、病院にあるような医療用CT装置ではあまり役に立ちませんし、工業用のマイクロフォーカスX線CT装置でも解像度は十分でなかったようです。シンクロトロン放射X線によるCTは、歯のエナメル質の組織構造まで見えるとも言われるように、非常に精密な断層画像が撮影可能です。この小さな化石霊長類の分析にとっても、強力な助っ人となりました。
 こうして得られた情報を含めて、なんと約1200もの形態学的な特徴を評価し、これを156の現生・化石霊長類等と比較して系統解析をしたところ、このアーキケブスはオモミス類や現生メガネザルを含む系統の基幹に近い位置にいることがわかりました。真猿類のオモミス起源説を指示する有力な証拠と考えられます。ところがアーキケブスはメガネザルの遠い祖先であるにもかかわらず眼がそれほど大きくないため、現生のメガネザルのような夜行性ではなく、昼行性であっただろうと推測されています。5500万年前にはすでにメガネザルグループと真猿類が分岐しており、なおかつ真猿類の祖先も昼行性であったことを示唆する研究結果として注目されます。

画像キャプション:森で餌をとるアーキケプスの想像図
<復元画像提供:中国科学院古人類及古脊椎動物研究所(IVPP)倪喜軍博士>