2011-04-26

100年ぶりに発見!ヒメモヅルの新種


こうして新種の論文が完成した! --- 新種を発見するまでのプロセス

 岡西さんが、新たに採集したツルクモヒトデ類を調べていたところ、その中にヒメモヅル属の標本が4個体ありました。文献をあたって良く調べてみても、これらがいったい何という種なのかが、どうも簡単にはわからないことが判明したのです。

 そこで、他に比較する標本がないかを探してみたところ、当館にはタイプ標本ではないもののAAstrocharis ijimaiの標本が36個体所蔵してありました。さらに、特に重要なタイプ標本を観察するために、欧米の博物館を訪問し、所蔵している標本を調べることとしました。タイプ標本は、オランダのアムステルダム大学動物学博物館に@Astrocharis virgoのシンタイプ、アメリカのハーバード大学比較動物学博物館にAAstrocharis ijimaiのシンタイプ、デンマークのコペンハーゲン大学動物学博物館にBAstrocharis gracilisのホロタイプを観察しました。

 まず、これらの様々な標本を調べることにより、別種とされていたBAstrocharis gracilisは、実際にはAAstrocharis ijimaiと同じ種である(同種異名,ジュニアシノニムと呼びます)ことがわかりました。また、@Astrocharis virgoのシンタイプ標本には、原記載には書かれていない分類学的に重要な形質が認められました。新たに得られた4個体の標本は、これまでに知られているヒメモヅル属の全ての種とは異なることが判明したため、新種として認めAstrocharis monospinosaという名前をつけ記載し、論文にとりまとめ、日本動物学会が発行している学術雑誌「Zoological Science」に発表しました。その号の表紙には、この新種の写真が採用されました。この新種を含めヒメモヅル属は3種いることとなり、この論文では、属内の種を識別し同定するための検索表も発表しました。今回の新種の特徴は、体の表面にある骨片が大きいことや、腕の口側にある腕針という骨片の数が1本しかないことで、それが他の種と異なる点です。そのうちの後者の特徴にちなんで、monospinosa(ラテン語で1本の針をもつという意味)という種小名をつけました。

 ヒメモヅル属の中で最初に記載された種はAstrocharis virgoで、1904年に発表されています。次に新種が発表されたのは1911年のAstrocharis ijimaiです。その後、1918年にはAstrocharis gracilisが新種として発表されましたが、本研究によって、実際にはこの種はAstrocharis ijimaiと同種であることが判明し、Astrocharis gracilisという種の学名は使われないことになったので、ヒメモヅル属の新しい種としては、1911年から数えれば、ちょうど100年ぶりの発見ということになります。【図5,図6,図7】