2010-05-15

孤島に生き残っていた小型人類ホモ・フロレシエンシスの謎


進められている研究 ---- これまでとこれから

 ホモ・フロレシエンシスについて、国際的な研究プロジェクトがどのようにおこなわれているのでしょうか?どんなことが明らかになっているのでしょうか?インドネシア国立考古学研究センターでは、国際的な研究協力のもと研究が進められています。

■ 様々な研究分野― ホモ・フロレシエンシスの骨格についての研究は?
 ホモ・フロレシエンシスの骨格について、インドネシア以外にもオーストラリア、アメリカ、日本など様々な国の多数の研究者が、研究を分担して行っています。現時点で明らかになっている主な特徴は、身体サイズが極端に小さい(身長1メートル強)、脳がチンパンジーや猿人並みに小さい、脚が短く腕が長い、手の骨には原始的な特徴がある、などです。足が脚と比べて大きいので、走るのは苦手だったという推測もあります。

 また、ホモ・フロレシエンシスは病気のために小さくなったのではないかという説もありましたが、それについては様々な特徴から違うことが判明しています。科博の研究チームは、現在、頭骨の詳しい解析などを行っていますが、これが終わればまた新たなことが明らかになるでしょう。

■ ホモ・フロレシエンシスはどんな環境にいて、どんな生活だったのかについて研究する!
 ホモ・フロレシエンシスが生きていた頃の島の環境についても、研究が進められています。動物化石については先に述べましたが、そのほかにも洞窟や洞窟の前の谷がどのように形成されたか、洞窟の中の堆積がいつどのように起こったかを調べることも大事です。例えば、10万年以上前の洞窟内には川の水が入り込むことが多く、動物にとって住みづらい環境であったと考えられています。このほか、当時の植物についても研究が進められています。

■ どのような検討がされているのでしょうか?どんなことが明らかになっているのでしょうか?
 孤島において、動物の体のサイズが変化する例が知られています。足が短く、脳サイズが小さくなる等の変化が見られる場合もあります。理由としては、島に入って来やすさ、捕食者がいない、たべものがすくない・・などの 島の環境的影響があるようです。ホモ・フロレシエンシスの小さな身体も、このように島における矮小化として説明できるのでしょうか? しかし一度大きくなった脳までも小さくなってしまうなどということが、人間の進化の中であり得るのでしょうか?

 この謎を解くためには、フローレス島のより古い時代の動物と人類について調べる必要がありそうです。少なくともステゴドンは、80万年前には大型でしたがリャンブアの時代には小型化していました。石器が存在することから、人類は島に少なくとも100万年前からいたことがわかっています。ホモ・フロレシエンシスの祖先候補であるこの人類の化石が見つかれば、身体サイズの謎を解く大きな手がかりになると思われますが、残念ながら現時点ではみつかっていません。

 もしホモ・フロレシエンシスの祖先の脳がもともと小さかったとするなら、この人類における極端な矮小化を考える必要がなくなります。このような考えから、モーウッド博士は、200万年前のアフリカにいた、原始的で脳が小さいホモ・ハビリスのような人類から派生したのでは?と考えています。

 教科書では、人類はアフリカでホモ・エレクトスまで進化してその後にユーラシアへ拡散したとされています。もし、ホモ・フロレシエンシスが、ホモ・ハビリスとつながると考えられるなら、今までの人類進化の考え方を変更しなくてはなりません。一方で、ホモ・エレクトスとつながったとしても、今度は人類進化における極端な矮小化という問題が出てきてしまいます。どちらにしろ、大変大きな課題がホモ・フロレシエンシスによって与えられているのです。

 ホモ・フロレシエンシスの起源を探るため、リャンブア洞窟以外の場所でも、野外調査が始まっています。リャンブア洞窟の調査が新たな研究調査に結びついているといえるでしょう。リャンブア洞窟での証拠は、人類の進化についてこれまでの説明が単純すぎたこと示しめしています。その詳細は、今後の新しい発見で明らかになっていくことでしょう。