2010-02-01

今,深海が面白い ― 微化石と海底掘削調査 (協力:地学研究部 谷村好洋)


地球を掘る:海底掘削船の挑戦

 HMSチャレンジャーの航海から間もなく140年。深海探査の技術は格段に進歩しました。
 日本の有人潜水探査船『しんかい6500』は,水深6,500メートルまで潜ることができる世界唯一の有人探査船として1,000回を超える潜航を行い,海底の堆積物のみならず深海生物,海洋地殻についての調査を行ってきました。無人探査機『かいこう』は世界で最も深いマリアナ海溝で10,911メートルまでの潜航に成功したほか,同じくマリアナ海溝で1万メートルを超える深海から世界で初めて生物の採取にも成功しています(2006年より,7千メートル級の探査機『かいこう7000U』が運用中です)。

 しかし,初めにもお伝えした通り,深海には今も未踏の領域が多く,未解決の謎も数多く残されています。
 統合国際深海掘削計画(IODP)は,日本とアメリカを中心にEU,中国が協力し,深海底を掘削することによって地球環境の変動や地球生命の起源,地震発生のメカニズムなどの解明を目指す国際プロジェクトです。日本は2005年7月に地球深部探査船『ちきゅう』を完成させた他,アメリカの科学掘削船『ジョイデス・レゾリューション』にも多くの日本人科学者が乗船して研究を行っています。

 2009年9月から11月に掛けて,『ジョイデス・レゾリューション』は日本から約1,500キロ,北太平洋沖の海底にある超巨大火山,シャツキー海台の掘削を行いました。海台が作られる仕組みを探ることが目的でした。
 この航海には国立科学博物館から2名の職員が乗船し,船上での研究や日常生活についてのリポートを行いました。詳しくは下部リンクから『地球をほる?』をご参照ください。

 『ちきゅう』は世界最高の掘削能力(海底下7,000メートル)を持ち,IODP計画の主力船として期待されています。
 大深度の掘削によって,地球環境の変化だけでなく,地下奥深くに残されているかもしれない原始生命の探索や,地震発生メカニズムの解明,更にはマントル物質の直接採集を目指しています。

 昨年2009年には和歌山県沖の熊野灘,海底下540メートルから堆積岩とその下の基盤岩の境界線を発見,回収に成功しました。基盤岩を構成していたのは玄武岩質の枕状溶岩で,枕状溶岩はやがてプレートの移動によってプレート境界へ持ち込まれ,巨大地震を引き起こす滑りの一因になるとも考えられます。また,海底下に地下水が流れていることや,1千万から500万年前に伊豆・小笠原方面から火山灰の流入があったらしいことなども判りました。
 2009年の掘削はプレートの沈み込む直前の海底で行われましたが,今後は沈み込み帯の真上からの掘削も行われる予定です。特に海底下6千メートルにあると言われる地震発生帯に到達する為には,プレートがその下に沈み込んでいるユーラシアプレートを貫く掘削が必要になります。地震発生のメカニズムの解明に加え,掘削孔にセンサーを設置することによって,地震発生と同時に陸上へ素早く情報を発信できるシステムが構築できれば,防災にも大きな助けとなるでしょう。

 これら海底掘削調査の結果については,IODP・JAMSTECのホームページでそれぞれ公開されています。

写真:日本館3階『日本列島の素顔』より『ちきゅう』