2010-01-01

2009年科学ニュースを振り返って


2009年科学関連ニュース クイックレビュー(2)

まだまだ続く:恐竜・古生物発見ラッシュ
 6月には和歌山県有田郡有田川町で,モササウルス類の後脚の化石が発見されました。モササウルス類は中生代白亜紀後期に生息した海生爬虫類で,それまで陸上で生息していたオオトカゲ類が海に適応し,大型化したものと考えられています。国内のモササウルス類の化石はこれまでにも30例以上の報告がありますが,今回のものは大腿骨から足根骨(人間で言えば足首に当たる骨)まで,後脚を構成する一連の骨が関節で繋がった状態で発見されており,水中への適応を理解する手掛かりになると期待されています。
 タンバリュウの発見で知られる兵庫県丹波市では,ティラノサウルスの祖先の可能性のある恐竜の歯の化石が発見されました。白亜紀前期,1億4千万年前の地層からの発見で,白亜紀末に登場するティラノサウルスとは大きな時代的隔たりがありますが,歯の大きさから推定できる体長は約5メートルと,同時期のティラノサウルスの祖先種としてはかなり大型です。年代については今後精査が必要ですが,地層と同じ時代であると確認できれば,ティラノサウルス類の大型化がこれまで信じられていたより早い時期から始まっていたことを示す証拠となるかも知れません。

 同じく6月,イギリスの科学雑誌『Nature』に,新種の小型獣脚類『リムサウルス』が発表されました。中国北西部,ジュンガル盆地のジュラ紀後期の地層から発見されたリムサウルスは,体長約1.7メートル,頭部は前後に短く,歯の代わりに嘴を持っており,植物食で,二足歩行をしていたと考えられています。
 獣脚類には大型のティラノサウルスや比較的小型のディノニクスなど多くの肉食恐竜と,始祖鳥やシノサウロプテリクスなどの原始的な鳥類,そして現生の鳥類を含むグループです。リムサウルスはケラトサウルス類の原始的な種として分類されましたが,植物食のケラトサウルス類は極めて異例です。
 現生の鳥類は小型の獣脚類の一種,コエルロサウルス類から進化した(系統学的に言えば鳥類はコエルロサウスル類に含まれる)とする説が有力です。しかし鳥類と恐竜が共に3本ずつ持っている前脚(翼の場合も含む)の指の起源について,それぞれもともと5本持っていた指のうち鳥では1,5番目の指が退化しているのに対し,恐竜では4,5番目が退化しているとして,血縁関係に疑問を唱える研究者も居ました。リムサウルスでは1番目の指が2,3番目の指より短く,小さいながらも4番目の指が残っているため,鳥類と同じく1番,5番が退化に向かっているのではないかとして話題になりました。
 しかし一方でリムサウルスは特殊例に過ぎないという意見もあります。鳥と恐竜はどちらも4,5指が退化しており, 鳥だけが遺伝子の変異によって胚発生時に2,3,4番目の位置に指がつくられるようになったとする説もあり,未だ結論は出されていません。

 10月,石川県白山市教育委員会が,同市内の白亜紀前期(1億3000万年前)の地層,桑島層で1998年に発見された化石が,新種の恐竜だったことが判ったと発表しました。化石は頭の一部で,歯がついた上顎が含まれています。
発見地などから『アルバロフォサウルス・ヤマグチオロウム(アルバロフォは白い山,ヤマグチは調査に貢献した2人の名に因む)』と名付けられたこの恐竜は角脚類に分類され,体長は推定約1.3メートル,植物食,2足歩行をしていたと考えられています。
 見た目の特徴はイグアノドンなどの鳥脚類に似ていますが,歯には鳥脚類だけでなく,トリケラトプスなど角竜類と良く似た特徴も見られました。鳥脚類と角竜類の分岐はアジアで進んだと言われていますが,両方の特徴を持った化石はこれまでほとんど見つかっておらず,今回の発見で分岐の解明に近づけることが期待されます。身体の他の部分についても,今後発掘が目指されることになっています。

写真:モササウルス類の一種,ティロサウルス(地球館地下2階『水に戻った四肢動物』)