2010-01-01

2009年科学ニュースを振り返って


2009年科学関連ニュース クイックレビュー(1)

世界天文年:
 2009年は国連・ユネスコ・国際天文学連合の定める世界天文年でした。イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが初めて望遠鏡を夜空に向けてから400年の節目の年でもありました。ガリレオのように星空を見上げ,自分なりの新たな宇宙像を見つけることはできたでしょうか?
 そんな天文年を祝って,という訳でもなかったのでしょうが,流星群や彗星,日食など見応えのある天文イベントも相次ぎました。
 1月3日〜4未明のしぶんぎ座(りゅう座ι)流星群,10月19日ごろから約1週間に渡って見られたオリオン座流星群,11月17〜18日のしし座流星群は特に観測条件が良く(※2),12月13,14日のふたご座流星群も,極大時には日本は昼だったものの前後の夜に楽しむことができました。
 7月22日には,46年ぶりに日本国内陸上で皆既日食が観測されました。皆既の時間が最も長いとされたトカラ列島悪石島は残念ながら荒天となってしまいましたが,科博では国立天文台などのご協力により,硫黄島からの皆既の映像を中継でご覧頂くことができました。東京も曇り空でしたが,雲の切れ間で部分日食をご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 2010年は元旦早々の部分月食から始まりましたが,1月15日には中国・東南アジア・インド洋などで金環日食,7月11日にはイースター島などで皆既日食が見られます。1月の日食は日本でも,東海以西で日没直前に食が始まり,欠けたままの夕日が沈む様子(日没帯食)を見ることができます。




 2007年10月に打ち上げられたJAXAの無人月探査衛星『かぐや』は,ハイビジョンカメラによる月面や満地球の出の撮影,リレー衛星『おきな』を利用した月の重力異常の観測,溶岩チューブと思われる地下の空洞に繋がる地表の竪穴の発見など,多くの成果を残して来ました。中国の『嫦娥1号』(2007〜2009),インドの『チャンドラヤーン1号』(2008〜2009),アメリカの『LRO』・『LCROSS』と,ここ3年の月面探査ラッシュのいわばさきがけとなった探査機でもあります。
 6月11日,予定の探査を終えた『かぐや』は月の南半球,Gillクレーター付近への制御落下によって任務を終了しました。落下の途中,高度20キロ前後と極めて近い月面の映像の撮影にも成功しています。
 『かぐや』は2008年,南極付近のクレーター内に存在する永久影(月の北極・南極のクレーターの底など,1年を通じて太陽の光が全く当たらない場所)をカメラで撮影し,水の氷の存在を示唆する反射率の高い領域が存在しないかどうかを調査しました。その結果永久影の表層には水氷と思われる領域はなく,水氷はあったとしてもごく少ないか,或いは表層物質中に混ざってしまっていることが示唆されていました。
 2009年10月,アメリカ・NASAは無人月探査機『LCROSS』を南極付近の別のクレーターに衝突させ,翌11月,その衝撃で飛散した表層物質の分析から,表層中にある程度まとまった量の水が含まれていることが判ったと発表しました。水の総量や分布についての分析は未だ途上ですが,月の起源の理解に向けて大きな前進であることは間違いありません。

 同じく11月,国立天文台,ドイツ・マックスプランク研究所などのチームが,すばる望遠鏡に搭載された最新のコロナグラフを使用して,太陽に良く似たタイプの恒星の周りを公転する惑星の直接撮影に成功しました。
 2009年11月現在,系外惑星と思われる候補天体の数は400を超えています。しかしこれまでの『発見』のほとんどは,惑星の重力の影響と考えられる恒星の自転軸のふらつきや,惑星と思われる影が地球と恒星の間に入ることによる恒星の明るさの変化などを使った間接的な推定に過ぎませんでした。
 これまでの直接確認の例では,幾つかの褐色矮星や若い恒星の周りを太陽・地球間の距離の100倍以上も離れて回る伴星の報告があり,太陽の2倍程度の質量を持つ恒星では,ハッブル宇宙望遠鏡などが惑星候補天体を観測しています。しかし太陽と似たタイプの恒星の惑星,或いは太陽系に近い姿であるかも知れない惑星系については,これまで見つかっていませんでした。
 今回撮影されたのは,こと座の方向,地球から約50光年離れた太陽タイプの恒星,GJ758の周りを回る天体です。質量は木星の10倍程度,恒星からの距離は地球・太陽間の約29倍(太陽から海王星までの距離に近い),天体の表面温度は摂氏300度程度と推定されます。同じ写真にもうひとつ,惑星候補の可能性のある天体が撮影されており,こちらの検証も楽しみなところです。

※2 流星群は彗星などの天体が太陽系空間に残した塵の帯(ダスト・トレイル)を地球が通過することで発生します。トレイルの中でも塵がより多く分布しているところを通過したり,彗星本体が地球に接近した時にも,単位時間あたりで見られる流星の数は多くなる傾向にあります。
また,トレイルとの位置関係の条件が同じ場合で比較すると,観測値の夜が極大の時間にちょうど重なる場合や,月が新月か,或いは明け方まで昇らず空が充分に暗い場合,あるいは放射点(※3)が地平線上高い位置まで上った時にも,単位時間あたりに観測できる流星の数は多くなります。

※3 流星群に属する複数の流星の飛跡を天球上に描くと,全ての飛跡はある1点を中心として,放射状に広がっているように見えます。この中心点を放射点といい,流星群の多くは放射点の方向に見える星座,あるいは星座の中の特定の星から名前がつけられています。

写真上:
11月18日,しし座流星群(提供:瀧本郁夫)
下:
7月22日,東京都心で観測された部分日食(東京都新宿区にて撮影)
※太陽に向けたカメラのファインダーを直接覗くことは危険ですのでお止めください。