2009-11-01

2009年ノーベル賞 自然科学3賞の業績


光ファイバーとCCD:現代ネットワーク社会への恩恵

 光ファイバーとCCDセンサーはどちらも,現在の私たちの生活に既に深く入り込んでいます。
 このWEBサイトをご覧いただいている皆様なら,記事の右上にしばしば図や写真が添えられているのにお気づきになっているでしょう。これら写真や図は版権の断り書きがある場合を除いて,筆者がデジタルカメラで写真を撮影したり,手描きイラストをスキャナで取り込んだりして使用しています。これらの画像はデジタルカメラやスキャナに内蔵されたCCDセンサーによって電気信号に変換され,科学博物館の光ファイバーケーブルを通って皆様へと繋がるネットワークへ流れて行きます。
 
 光ファイバーは,離れた場所へ情報を伝える伝送路です。現代のほとんど全ての情報通信で使用されており,地球を取り巻く光ファイバーケーブルの総延長は10億キロメートルにも及んでいます。
 しかしここに至るまでの過程は平坦なものではありませんでした。1930年代にはごく短い光ファイバーが医療現場で患者の体内を観察したり,手術時に患部に光を当てる目的で使用されていました。しかしファイバーから光が漏れたり,ファイバー自体も直ぐに傷んでしまっていました。1960年代になるとファイバーの被覆が行われるようになり,胃内視鏡やその他の医療装置への利用が広がるようになりました。しかしこれらの光ファイバーは,いずれもごく短いもので,長距離の情報伝達に使えるものではありませんでした。
 1960年代から70年代に掛けてのレーザーの開発で,ファイバーに簡単に導入できる細く安定した光信号が作れるようになりました。しかし折角導入された光も,当時は僅か20メートル進んだだけで最初の1パーセントにまで減衰してしまっていたのです。

 1966年,カオ氏は減衰の軽減のため,光ファイバーの材料としてそれまでになく透明度の高い,高純度の石英ガラスを使うことを提案します。そして1970年,彼の提案を受けたアメリカのガラス製造会社コーニングが,長さ1キロメートルの光ファイバーを作成したと発表しました。

 1988年,アメリカとヨーロッパの間に最初の大陸間海底光ケーブル(光ファイバーを保護用に被覆しケーブルにしたもの),約6000キロが敷設されました。以来世界中で敷設が続き,現在の総延長は地球をおよそ25000周するまでになりました。伝送効率は1キロメートルを進む間に約5パーセントの情報が失われる程度にまで向上しています。


 CCDセンサーは光電効果を利用して,画像情報を電気信号に変換して記録する,言わば電子の眼です。
 光電効果とは物質にある一定の振動数以上の光が当たった時(物質に当たった光子1個当たりのエネルギーがある一定より大きい時),物質から電子が飛び出して来る現象のことです。

 CCDセンサーが私たちにもたらした恩恵は数え切れません。ハッブル宇宙望遠鏡の美しい天体写真は,宇宙にそれほど興味はないという方でも,見たことのある方は多いのではないでしょうか?その他記憶に新しいところでは『かぐや』が届けた月面の様子や,『はやぶさ』から送られてきた小惑星イトカワの画像もCCDカメラで撮影され地球に伝送されたものです。
 しかしCCDの開発者であるボイル氏とスミス氏は,元々映像装置を作る予定ではなかったといいます。2人は当時使われていた磁気バブルメモリーの性能を向上させる手段の研究の途上で,電子を次々に受け渡して行くCCDの原理を思いつきました。

 CCDセンサーはシリコン製のプレートの表面に,無数の光電素子が並べられた構造になっています。光を受けて飛び出した電子を,素子内に他より電位の高い部分(他よりも電圧がプラスになっている部分。電位の井戸と呼びます)を作り出すことによって井戸内に集め,次いでセンサー全体の電位を調整することによってひとつの井戸から隣の井戸へと移動させて行きます。素子に当たった光が強ければ強いほど,ひとつの井戸に溜まる電子の量は多くなります。やがてセンサーの読み取り部分にたどり着くと,電子の量は電気信号に変換されて記録されます。

 CCDセンサーで記録できるのは,入射した光の強弱だけです。その為撮像された画像は,そのままでは白黒になってしまいます。カラー画像を得るためには,例えば複数台のセンサーを用意しておき,ひとつには赤い光だけを,ひとつには青い光だけを,残りひとつには緑の光だけを透過するフィルターを取り付けてそれぞれのデータを合成するという方法があります。

写真:地球館地下3階に展示中のすばる望遠鏡モザイクCCD