2009-11-01

2009年ノーベル賞 自然科学3賞の業績


2009年ノーベル賞出揃う

 2009年のノーベル賞受賞者の発表が出揃いました。
 昨年に続く日本人の受賞はなりませんでしたが,就任から1年足らずでのオバマ米国大統領への平和賞授賞や,医学・生理学賞で2人,化学賞で1人と自然科学系の女性の受賞者が多かったことなどが話題となりました。
 今年の自然科学3賞は,私たちの身体や日々の生活に関わりの深い,比較的身近で実用的な研究・開発に光が当たったことも特徴です。

 ノーベル物理学賞を受賞するのは,光通信に使用するグラスファイバーの実用化に繋がる研究を行った香港(英国籍)のチャールズ・K・カオ氏と,CCD(電荷結合素子)センサーを発明したアメリカのウィラード・S・ボイル氏,ジョージ・E・スミス氏です。
 化学賞は細胞の中にあるタンパク質合成の場,『リボソーム』の立体構造を解明した業績により,イギリスのベンカトラマン・ラナクリシュナン氏,アメリカのトーマス・A・スタイツ氏,イスラエルのアダ・E・ヨナット氏の3氏に。
 医学・生理学賞は同じく細胞の中にある,染色体を保護する構造『テロメア』と,テロメアの成長に寄与する酵素『テロメラーゼ』の働きを解明したアメリカのエリザベス・H・ブラックバーン氏,キャロル・W・グライダー氏,ジャック・W・ショスタク氏に授与されます。
 授与式は現地時間で12月10日,スウェーデン・ストックホルムで開催の予定です。


 ノーベル賞の発案者であり賞名に名を残すアルフレッド・B・ノーベルは,1833年にストックホルムで生まれました。父イマニュエルは水中火薬の改良などで知られた発明家で,アルフレッドも父を手伝って爆薬事業に携わるようになって行きます。
 1866年に爆薬,ダイナマイトを発明。これは,威力は高いものの些細な衝撃で爆発するため扱いが難しかった爆薬,ニトログリセリンを,珪藻土などに浸み込ませることで,威力はそのままに衝撃への耐性を大きく高めたものでした。
 折しも第二次産業革命下のヨーロッパでは,輸送手段としての鉄道の建設が盛んに進められており,ダイナマイトはトンネル工事などでその威力を発揮することになります。しかしその一方,1870年の普仏戦争など戦場でも使用され,大きな犠牲を出すことにもなりました。
 ダイナマイトの国際特許や工場をはじめとする多国籍企業の展開などで財を成したアルフレッド・ノーベルは,生涯独身で子どももなく,遺言書の中で自分の遺産が『国籍を問わず,人類に最も貢献した人々に』授与されることを希望しました。貢献が評価される分野は,物理学・化学・医学または生理学・文学・国家間の友好の5つ(※1)としました。

 第1回のノーベル賞が授与されたのはノーベルの死から5年後の1901年。それから100年以上が過ぎ,後に誤った成果であったと判明した研究や,政治的に過ぎるなどとして批判されることとなった選択もありつつも,かつての受賞研究・発明が現在の私たちの生活に欠かせないものとなっている例,或いは私たちに恩恵をもたらす新たな発展的研究へと繋がった例は数多くあります。


 今回のホットニュースでは,2009年のノーベル賞のうち自然科学系3賞について,授賞理由となった研究・発明と,それらがもたらす影響についてお伝えします。


※1 現在一般に『ノーベル賞』の名で授与される賞にはあと1つ,経済学賞があります。これはノーベルの遺言によるものではなく,1968年にスウェーデン国立銀行の提案によって創始されたものです。正式名称は『アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞』で,授賞式などは他のノーベル賞と合同で行われますが,賞金はノーベルの遺産ではなくスウェーデン銀行から拠出されています。

写真:アルフレッド・ノーベル(Wikipedia)