2009-09-15

美味しい?危ない?きのこの秘密 (協力:植物研究部 保坂健太郎)

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※この記事は以下のページで構成されています。ご覧ください。
きのこの生物学
「毒きのこ」は見分けられるか?
きのこを育てる
きのこ研究者に聞く

きのこ研究者に聞く

 国立科学博物館では,2008年度特別展『菌類のふしぎ』や,今年7月に八丈島で実施した自然観察会『八丈島の光るきのこ・地衣・シダ♪』などを通して,菌類の研究だけでなく皆様へのご紹介にも力を入れてきました。
 菌類の中でも特にきのこについて,担当の植物研究部,保坂健太郎研究員に研究の様子やきのこの魅力を訊いてみました。

Q:先ず初めに,先生ときのこ研究の出会いについて教えてください。
A:山へ行ったり,生き物を観察したりすることは元々好きでしたが,食べられる植物やきのこが見分けられれば山がより楽しくなりそうだと考えていました。
 研究対象としてのきのことの出会いは大学で理学部の生物学科に入ってからです。きのこは動物や植物と比べて,発見されていない種や判っていない謎が多いため,研究・発見の余地もたくさんあると考えて選びました。

Q:現在の研究テーマは何ですか?
A:日本のどこにどのようなきのこが生えているのかを,全国のきのこを採集して調べています。採集できたきのこについて,日本にしか生えていないのか,世界のどこかで同じものを見つけられないかを調べるために,世界のきのこの分布も知らなければなりません。ひとりではとても出来ないので,世界の研究者と協力して進めています。

Q:国内・海外各地へ野外調査に出掛けられていると思いますが…これまでどのようなところに出掛けられたのでしょうか?
A:今年はこれまでにニューカレドニアとニュージーランド,タイ,国内では小笠原諸島と北硫黄島に行きました。これから台湾とハワイ,アルゼンチンに行く予定です。
 今まで行ったことのある場所はアメリカ・中国・ニューギニア・オーストラリアです。いつかアフリカに行くのが夢です。

Q:きのこの採集・調査の流れを教えてください。
A:先ず初めに,山や森に入ってきのこを探します。きのこは水分が多いため,植物のように押し花・押し葉にすることはできません。ドライフルーツ作りに使う機械を使って温風を当て,その日のうちに乾燥させます。
 乾燥させたきのこは保存には良いのですが,元と比べて縮んでしまい,形や色,においや味も大きく変わってしまいます。乾燥前に形や色を記録するために写真を撮り,においや味は実際にかいだり,齧ったり(※3)します。
 最近ではDNAサンプルも取っておかなければならないことが多いのですが,DNAは熱に弱く,時間が経つと劣化するため,これも乾燥させる前にきのこの一部を切り取って,保存液の中に漬けておく必要があります。
 培養したいものについては,同じくきのこの一部を切り取って培地の上に乗せておきます(菌糸の培養の様子は1ページ目に写真をご覧ください)。

Q:かなり忙しそうですね。
A:そうです。午前中は山に入って採集,午後は記録や保存のための作業で潰れることも多く,朝から晩まで山にいる訳ではありません。撮影や乾燥には時間も掛かるので,夜中過ぎまで寝られないこともよくあります。

Q:調査中何か注意されていること,大変なことはありますか?
A:調査を始める前に,山や森の所有者,管理者に必ず許可を取ります。これはきのこに限らず,ほとんどの野外調査で必要になります。
 菌類の調査では調査地以外の土を持ち込まないよう注意しています。調査地にはない菌の菌糸や胞子が混ざっているかも知れないからです。調査に使った器具は良く洗い,必要に応じて塩素で消毒します。
 少し変わったところでは,トリュフなど商品価値のあるきのこでは,国境を越える移動に関税が掛かることもあります。

A:大変なのは,研究対象が菌糸ではなくきのこである場合がほとんどなので,きのこが生えてくれなければ研究が始められないことです。最近では菌糸を直接使う研究も増えましたが,菌糸だけ,DNAだけを見てもそれがどのきのこのものか判らないことが多いため,結局最後はきのこが生えてくるまで待つしかありません。

Q:最近のきのこ研究で,面白い話題はありますか?
A:3年ほど前になりますが,宮崎県で飼い犬が庭に生えていたきのこを食べて中毒を起こしました。犬は快復しましたが,犬が吐いたきのこを調べたところ新種だったことが判り話題になりました。
 また,トリュフと言えばヨーロッパのきのこというイメージですが,日本でも最近,近い種類が見つかりました。菌糸だけでなくきのこも地下に生える種類のため,これまで見つからなかったようです。ヨーロッパ産のように香りの良いものが見つかるかは判りませんが,これからもこのような形での新種発見は続きそうです。

Q:最後に,これからきのこの研究を目指す方々にメッセージをお願いいたします。
A:日本にも,世界にも,名前さえつけられていないきのこはまだまだたくさんあります。これまでに見つかっているきのこは,きのこ全てのうち1割くらいに過ぎないのではないかと思います。一緒に研究してみたい方,大歓迎です。きのこの秘密に皆で迫って行きましょう!

Q:ありがとうございました。


※3 食味や食感での判断には知識と経験が必要です。絶対に真似をしないでください。


(研究推進課 西村美里)

写真
上:トリュフのなかまのきのこを地中から掘り出す保坂研究員
下:きのこを乾燥させる様子(いずれも提供 保坂健太郎)

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