2009-09-15

美味しい?危ない?きのこの秘密 (協力:植物研究部 保坂健太郎)


きのこの生物学

 暑さも和らぎ,山や林へきのこの採集や観察に出掛けるのも楽しみな季節になって来ました。マツタケ,マイタケ,シメジ…多くのきのこの旬は9月頃から始まります。シイタケの旬は年2度で4・5月と9〜11月,ヒラタケはやや遅れて10〜12月頃まで楽しめます。

 きのこと一口に呼んでいますが,「きのこ」は「哺乳類」や「植物」などとは違い,ひとつの生物種のまとまりを表す呼び名ではありません。
 きのこは生物学的には菌類に属します。菌類は真核生物の1グループで,自発的な運動能力を持たず,細胞に細胞壁を持つところは植物と,細胞内に葉緑体を持たず,生存に必要な養分を体外から供給する必要があるところは動物と共通しています。
 菌類の成長の様子や子孫の増やし方は種類によって異なるためここでは詳しくは触れませんが,多くの種では菌糸と胞子が重要な役割を果たします。菌糸とは細胞同士が集まって糸状の構造を作ったもので,これを伸ばすことで生息範囲が広がって行きます。
 菌糸はどこまで伸びて行っても,全ての細胞が同じ遺伝子を持っています。自分と全く同じ遺伝子を持ったコピーが無数に増えている状態とも言えます。
 一方胞子は,未だ菌糸が到達していない,新しい場所にも飛んで行くことができます。元の細胞と同じ遺伝子を持った胞子を作る種もあれば,2つの異なる細胞の核の融合と減数分裂によって,両親の遺伝子を一部分ずつ受け継いだ胞子をつくる種もあります。

 菌糸は普通地中や木の幹の中など,私たちの目に見えないところに隠れています。しかし1年のうち特定の時期になると,胞子をつくるために多数の菌糸が寄り集まって大きな構造物となり,地表や木の表面まで飛び出してくることがあります。この構造物のうち目に見える程度の大きさに成長したものを一般に「きのこ」と呼んでいるのです。

 菌類にとってのきのこの働きは,シダ植物のスギナにとってのつくしの働きに似ています。スギナは地下深くに地下茎を伸ばして平面的に拡がって行く植物ですが,春にはつくしを出して胞子を飛ばし,新たな生息地を獲得しようとします(その後に出る緑色のスギナには,光合成を行って養分を獲得する働きがあります)。つくしは春のごく一時期で消えますが,スギナの駆除には地下茎全体を掘り起こさなければなりません。

 きのこの場合もつくしと同じで,きのこを見つけたところには,地下(または木の幹などの中)にきのこの少なくとも数倍の重量の菌糸が隠れています。 きのこより寧ろこちらが本体であり,きのこが生えていない時期にも,私たちがきのこを全て採集してしまった後も菌糸は生き続けています。季節や気温・湿度などの条件さえ揃えば,何年も同じ場所で同じ種のきのこが採集できることが良くありますが,これは菌糸が生き残っているお陰です。

 菌糸と胞子,ふたつの成長・拡散システムのうち,恩恵が大きいのは菌糸の方です。きのこで作られた胞子のうちの9割はきのこから1センチ以内とすぐ傍に落ちてしまっており,菌糸と比べて生存率も高くありません。
 しかし,全ての細胞が全く同じ遺伝子を持つ菌糸と比べ,胞子は親と異なる遺伝子を持っているため,環境の変化など,菌糸の生存に危険が生じた場合でも生き延びる可能性が高くなります。


 まとめ

 @ きのこは菌類の胞子を作る器官で,目に見えるほどに大きな構造物の総称です。
 A 本体はきのこよりもむしろ菌糸です。
 B 菌糸が生きていれば1度採集してもまたきのこは生えて来ます。
 C きのこの成長・拡散は菌糸によるところが大きいですが,
   胞子を作ることも無意味ではありません。


写真:菌類の本体「菌糸」の試験管培養(提供 保坂健太郎)