2009-07-15

日食観測を楽しもう! (協力:理工学研究部 西城惠一)

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7月22日 国内陸上で46年ぶりの皆既日食
太陽活動と私たち
太陽観測衛星『ひので』
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太陽観測衛星『ひので』

 科学衛星『ひので』は,国立天文台・JAXAとアメリカ・イギリスの国際協力により開発された,日本にとって3代目の太陽観測衛星です。2006年9月23日,鹿児島県内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。
 『ひので』の主な目的は,太陽磁場と太陽表面の活動との関係,特に太陽の最も外層に存在するコロナの性質や活動についての謎を解明することです。また,太陽のフレアや磁気嵐など,地球上の人間活動に直接影響を及ぼす可能性のある太陽活動を観察することで,今後の発生の予測にも繋がると期待されています。

 『ひので』に搭載されている3台の観測装置は,それぞれ観測の対象と,用いる波長(※2)が異なっています。
 可視光・磁場望遠鏡のターゲットは,光球と太陽の下層大気,彩層です。太陽を対象としたものとしては世界で初めての本格的可視光望遠鏡で,太陽の磁場を3次元的に計測することができます。
 光球の上層とコロナの間の高度を観測するのが,極紫外線撮像分光装置です。光球や彩層とコロナとの間に,エネルギーのやり取りがあるかどうかを調べます。
 X線望遠鏡は,コロナを観測することを目的としています。可視光・磁場望遠鏡の情報と併せることで,太陽の磁気的な活動とコロナの活動の関係性が見えてきます。

 それでは何故,太陽の磁場がそれほど重要なのでしょうか?
 身近なところでイメージできる磁場は,磁石が持っているものでしょう。私たちの良く知る磁石は鉄を引き寄せますが,より強い磁場の中では鉄だけでなく,様々な物質・粒子が影響を受けます。
 例えば黒点は,太陽表面のプラズマの対流が強い磁力線で妨げられ,熱が伝わりにくくなることで発生すると考えられています。黒く見えるのは,周囲より温度が低い為です。
 太陽風は太陽表層のコロナが宇宙空間へ向けて膨張する現象と解釈されます。太陽表面の磁場は通常,プラズマを内側に向かって閉じ込めていますが,磁力線が繋ぎ変わるなどして開くと,プラズマは太陽の外へ向かう磁力線に引きずられる形で惑星空間へ放出され,大規模なフレアや太陽嵐を引き起こします。
 太陽が何故磁場を持つのかは未だ解っていませんが,太陽磁場に何らかの変動が起これば,それはそのまま太陽活動の変動として地球や人類に影響を及ぼすことになるのは間違いありません。

 今回の観測のもうひとつのターゲット,コロナにも大きな謎があります。太陽の表面の温度は摂氏およそ6,000度ですが,コロナの温度は遥かに高いのです。
 大気の温度は表面から高度500km付近までに4,000度程度に下がりますが,500kmを超えると上昇が始まり,高度2,000kmを境に1万度から一気に上がって100万度以上になります。
 太陽のエネルギーの源は,中心核で進む核融合反応です。単純に考えれば中心に近い方がより温度が高く,中心から最も遠いコロナは最も低温になるべきであるように思えます。何故コロナだけが熱いのかは「コロナ加熱問題」として長年論議が続いてきました。
 
 「コロナ加熱問題」の解決に繋がる可能性のある有力な仮説は2つです。
 1つは磁力線の小規模な開放による小さなフレア(ナノフレア)による加熱です。太陽表面のあちこちで磁力線が切れては他と繋がることで,小規模なフレアが同時多発的に発生し,表層からコロナへエネルギーを伝えている可能性があります。
 もう1つの仮説では,太陽表面の対流運動などによる磁力線の揺さぶりが原因としています。揺さぶられた磁力線は振動して波となり,この波がコロナにエネルギーを伝えているとする考えです。
 今回始まった『ひので』による観測ではこれまでに,2つの仮説それぞれを支持する証拠と思われる現象が確認されています。2つの勝敗が決まるのではなく,2つの仮説を融合した新たなシナリオが描かれることになるかも知れません。

※2 私たちが通常,「光」「X線」「赤外線」などと呼び分けているものは全て,エネルギーを伝える「電磁波」です。ここでは詳しく触れませんが,電磁波の伝えるエネルギーは波長が短いほど大きくなり,周波数が大きいほど大きくなります。即ち,より短い波長を観測できる装置を用意することは,よりエネルギーの高い活動,またはより温度の高い領域を観測できることに繋がります。
 ただし,紫外線より波長の短い電磁波は地球の大気によって吸収され地表には届かないため,観測する為には大気圏外に望遠鏡を打ち上げる必要があります。

図上:太陽の構造(地球館展示解説より) 下:太陽観測衛星『ひので』(CG,国立天文台提供)


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