2009-05-01

速報:新型インフルエンザ,侵入に注意


新型インフルエンザとは?(1)

 「『鳥インフルエンザ』なら聞いたことがあるけれど…」
今回の「豚」インフルエンザ報道に,こんな戸惑いを持たれた方も少なくないのではないでしょうか?そもそも何故,豚や鳥のインフルエンザが人間に感染し,しかも発症して重篤な事態を引き起こすのでしょうか?


 まず初めに,インフルエンザに限らず感染症全般の,感染から発症までのメカニズムを見てみましょう。

 感染は生物,たとえば人間の体内に,本来ならばいてはならない菌や細菌,ウィルスが侵入することから始まります。空気中にいたものを吸い込んだ,汚染された食べ物を食べてしまった,傷口から入り込んでしまった,など,様々な状況で感染は発生します。
 しかし感染したからと言って,必ずしも体調が悪くならない場合も多くあります。侵入したものが人間にとって特に害のないものである可能性もあります。その侵入者が定着できる環境が,人間の体にそもそもない,という場合もあります。
 人間にとって害のある菌や細菌,ウィルス(正確な表現ではありませんが,これ以降,簡略化のため「病原体」と表記します)に感染した場合でも,病原体の量が少なかった場合や,免疫システムが駆除に成功した場合など,入って来たものが体内で増殖せずに死んでしまえば,問題は起こりません。病原体の毒性が弱く,人間の体との共存に成功した場合も,人間の側の体力や免疫力が低下しなければ病気にはなりません。
 問題になるのは感染した人間の体力や免疫力が足りず,体内で病原体の増殖を許してしまった場合です。病原体そのものが人間の組織や細胞を攻撃することもあれば,人間にとって毒になる物質が病原体から放出されることもありますが,いずれの場合もその影響が,感染者の体に症状となって現れてきます。


 インフルエンザに話を戻します。
 インフルエンザウィルスのうちA型と呼ばれるウィルスには,ヒトに感染するもの,鳥に感染するもの,豚に感染するものなどの複数のタイプ(亜型)が存在しています。それぞれの亜型は元々は同じA型の遺伝子を持っていましたが,A型は遺伝子の変異が置きやすく,毒性や感染対象の異なる様々な亜型に分かれてしまったのです。
 鳥や豚に感染する亜型は,本来ヒトには感染せず,感染した場合も豚からヒトへ,鳥からヒトへごく稀に感染が起きる程度で,それほど大きな問題にはならない筈でした。
 ところが豚は,豚タイプの亜型だけでなく,ヒトタイプ,鳥タイプの亜型にもしばしば感染します。このため,ヒトタイプと他のタイプの亜型が1頭の豚に偶然同時に感染し,豚の細胞の中で亜型同士の遺伝子が混ざり合い(「遺伝子再集合」といいます),全く新しい亜型のウィルスが生まれる可能性があるのです。


 ヒトからヒトへ感染する今回の新型インフルエンザウィルスがどのように生まれたのかはまだはっきりしていませんが,遺伝子再集合が起こった可能性は否定できません。
 また,ここ数年鳥の間で感染が拡大している鳥インフルエンザウィルスについても,遺伝子再集合などによってヒト同士の間で感染するタイプに変異する可能性が心配されています。


参考:岩波講座『現代医学の基礎11−感染と生体防御』
   竹田美文・渡邊武編(岩波書店 2000年)