2008-11-25

謎の植物 ナンジャモンジャゴケ (協力:植物研究部 樋口正信)


研究者に聞く

 国立科学博物館植物研究部では,現在もコケ植物担当の研究者が,ナンジャモンジャゴケの採集・調査・研究を行っています。現在の担当者,植物研究部陸上植物研究グループの樋口正信グループ長に,ナンジャモンジャゴケとの出会いから現在の関わりまでを聞いてみました。

Q:ナンジャモンジャゴケとの最初の出会いは,どんなものでしたか?
A:学生の頃ですが,ナンジャモンジャゴケという珍しいコケがあることを知りました。確認された資料がまだ少なかった頃で,確か賞金もかけられていたように思います。しかし,高山にあるらしい,という情報を手掛かりに探したのですが,当時は見つけられませんでした。
1994年に,中国へ調査に行ったのですが,そこで思いがけず,初めて出会うことになりました。それが世界で2例目のヒマラヤナンジャモンジャゴケの胞子体の発見となったので,幸運でしたね。

Q:その時の様子を詳しくお聞かせください。
A:雲南省北部のチベットとの境界にある梅里雪山という山のふもとに調査に入りました。車の通れる道はなく,荷物を馬に積んでのキャンプ生活です。その日はなるべく標高の高いところへ行こうと氷河を目指していました。
低木の茂る斜面にある岩の露頭を調べていたところ,変わった形の胞子体のついたコケがあるなと思いましたが,初めはそれがナンジャモンジャゴケだとは判りませんでした。ルーペで見るとナンジャモンジャゴケだと判り,驚きました。
キャンプ地ではメンバーにそのことを興奮気味に伝えましたが,予期した反応はありません。専門が違う悲しさですが,いずれにしろ,その後の研究でこれがヒマラヤナンジャモンジャゴケであることが判明し,造精器をつけた雄植物と胞子体の発見はアリューシャン列島での発見に次ぐものでした。これにより,本種は予想された以上に活発な有性生殖を行っていることが明らかになりました。。
※ ナンジャモンジャゴケTakakia lepidozioidesの胞子体は今も見つかっていません。

Q:今回の中国での発見はどういう意味がありますか?
A:ナンジャモンジャゴケが生えている環境について知ることができたのが大きかったと思いますが,1994年の中国調査以降,国内では2004年に八ヶ岳で,また国外では2002年に台湾で初めて,ナンジャモンジャゴケの新しい生育地を見つけることができました。そして,今年は9月の中国雲南省の調査で今度はナンジャモンジャゴケを確認しました。
ナンジャモンジャゴケは日本の北アルプスから最初に発見され,現在までにヒマラヤ,台湾,ボルネオ,アラスカ,カナダ北西部から知られています。ヒマラヤナンジャモンジャゴケはヒマラヤとアリューシャン列島です。
これまでナンジャモンジャゴケ属の分布の中心は2種が分布するヒマラヤではないかと考えられてきたのですが,1994年のヒマラヤナンジャモンジャゴケと今回のナンジャモンジャゴケの発見を合わせると,横断山脈(雲南省北部,四川省西南部,チベット東南部を含む地域)がナンジャモンジャゴケ属の分布の中心である可能性が出てきました。

Q:ナンジャモンジャゴケ発表50年を記念した展示を企画されたと伺いました。展示に向けての意気込み,ご来館される方へのメッセージをお願いします。
A:11月23日から12月21日の予定でミニ企画展『ナンジャモンジャゴケと日本人』を開催中です。50年前に日本人により,日本から発見され発表されたナンジャモンジャゴケは,学界に大きな波紋を広げました。学説を変える発見は遠い世界の出来事ではなく,私たちの直ぐ身の回りにあることをこの例は示しています。ナンジャモンジャゴケについては未だ判っていないことも多くあります。ナンジャモンジャゴケを入口として,小さなコケの大きな世界を楽しんで欲しいですね。

Q:ありがとうございました。


写真:1994年,ヒマラヤナンジャモンジャゴケ発見地(遠景)


(研究推進課 西村美里)