2008-11-25

謎の植物 ナンジャモンジャゴケ (協力:植物研究部 樋口正信)


ナンジャモンジャゴケとは

 『ナンジャモンジャゴケ』という名前を聞いたことがありますか?植物研究部陸上植物研究グループの樋口正信グループ長は,2008年9月に実施した中国雲南省での調査中に,ナンジャモンジャゴケを発見しました。
 今年はちょうど,名前もその姿もとても奇妙なこの植物が新種として記載(※1)されてから50年目にあたります。今回のホットニュースでは,ナンジャモンジャゴケのユニークさについて解説します。
 
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 1952年,名古屋大学の高木典雄教授(当時。以下同)が北アルプスの餓鬼岳で未知の植物を採集しました。その植物は一見コケのようでしたが,ご自分の専門とする蘚類ではなく苔類と考え,それを苔類の専門家である,服部植物研究所の服部新佐博士(※2-1)に送って調査を依頼しました。
 しかし,服部博士はその植物が何なのか,そもそもコケなのかどうかも判りませんでした。詳しくは後に述べますが,外見はコケのようでありながら,確かにコケだという決め手になる特徴がほとんど見つからなかったためです。

 1956年,同じく北アルプスの白馬岳でも「謎の植物」が採集されました。餓鬼岳の標本はほんの僅かでしたが今度はまとまった量が採れ,改めて他の植物との比較研究ができるようになりました。「謎の植物」はその後藻類や地衣類,シダ類の研究者に送られましたが,結局そのどれとも違う,ということ以外正体に繋がる情報は得られませんでした。服部博士は仕方なく,「得体の判らないもの」という意味で取り敢えず,「ナンジャモンジャゴケ」と名前をつけます。
 発見者の井上浩博士(※2-2)は当時東京教育大学大学院生で,服部博士と共同でこの植物の研究を行いました。その結果,コケ植物の中でも苔類(詳細次項)のコマチゴケ目のものに似ている点があることから,完全に納得できたとは言えないながらも,1958年に苔類の新属・新種,ナンジャモンジャゴケ属ナンジャモンジャゴケ(Takakia lepidozioides S.Hatt. & Inoue)として発表しました。


※1 新種の記載とは,これまで知られていたどの生物とも異なる生物を発見した時,「どんな生物か?」「これまでに知られていた生物に見られず,この生物にだけ見られる特徴は何か?」を示し,その生物に学名をつけて論文を発表することです。
 学名は属名と種小名からなります。これは分類学の父と呼ばれるリンネにより創案された二名法と言います。このシステムは例えれば,人の姓名のようなものです。
 まったく同じ学名を2種類以上の生き物に与えることはできません。また一度つけた学名を変更することも原則としてできません。植物の学名の取り扱いは,国際植物命名規約というルールで細かく規定されています。
 ナンジャモンジャゴケの属名Takakiaは第一発見者の高木博士を記念してつけられたものです。

※2-1,2 服部新佐博士と井上浩博士は,当館の初代と2代目のコケ植物の研究者です。服部博士は1941年〜1945年(旧名称東京科学博物館),井上博士は1962年〜1989年にそれぞれ勤務されました。国立科学博物館のコケ植物研究は現在,3代目の樋口正信(植物研究部)に引き継がれ続けられています。


写真:ナンジャモンジャゴケ(提供 樋口正信。以下同)