2008-06-15

世界最古級の被子植物化石,日本で発見(協力:地学研究部 植村和彦,植物研究部 加藤雅啓)


研究の詳細

 現生のトリメニア科植物はインドネシアのスラウェシ島からオーストラリア東部,さらに太平洋南西部の地域に1属(トリメニア属)8種類が知られています。いずれも低木またはつる植物で,花は単性あるいは両性,両性花は多数の花被片と雄しべ,1心皮の雌しべからできています。胚珠は1個で子房に包まれており,固い皮(種皮)を持った種が1個入った果実(液果)ができます。


 トリメニア科は,かつてはクスノキ目,次いでモクレン目とされてきましたが,分子系統学的な検討からはアンボレラ科やスイレン目(スイレン科,ジュンサイ科),ヒダテラ科,アウストロバイレヤ科,シキミ科などとともに原始的な被子植物として知られるようになり,アウストロバイレヤ目に含められています。

 被子植物の起源についてはまだ多くの謎が残されていますが,トリメリア科にみられる“原始的”な形質(果実,2種皮性の種子,養分を貯蔵する内乳など)を理解することで,この問題は解決に向けて大きく前進することになるでしょう。


 先に紹介した原始的被子植物のうち,スイレン目やシキミ科は,白亜紀前〜中期の化石の記録があり,分子系統学で明らかにされた結果を支持するものと考えられます。しかし,他の多くの種類については,確かな化石記録は未だ知られていません。

 被子植物の起源を明らかにする上で,花粉化石の記録は重要な証拠になります。花粉の膜は化学的に丈夫なため,変成作用を受けていない泥質岩にはたいてい花粉化石が含まれています。世界各地の白亜紀層の花粉分析結果は,被子植物が比較的低緯度で誕生し,そこから両極に向かって拡散していったことを示しています。しかし花粉化石の場合,しばしば属や科の識別ができないことがあります。

 トリメニア科の花粉化石は既に報告がありますが,残念ながら科を特定するのは困難です。トリメニア科に類似した白亜紀の葉の化石も報告がありますが,こちらも科の特定には至っておらず,分類学的に最も重要な花の化石,あるいは果実や種子の化石の発見が待たれていたところでした。


 今回発見された種子化石は,北海道三笠市の西部,蝦夷層群の日陰の沢層から1999年に採集されたもので,約1億年前,白亜紀中頃(前期白亜紀の後期)のアルビアン期のものです。確実なトリメニア科の化石としては世界最古のものであり,同時に北半球にトリメニア科が1億年前に分布していたことを示した初めての化石です。


 化石の観察は,化石を含んだノジュールの岩片を研磨し,組織を薄く剥ぎ取って作った切片(※2)を光学顕微鏡で観察し,現生のトリメニア科植物の種子と比較しました。その結果,層状を成す厚く硬い外種皮や受精時に花粉管が胚珠に侵入するための珠孔の構造などで,現在のトリメニア科植物と変わらない特徴が見つかりました。

 この化石では,種子の内部の組織もよく保存されていて,胚や養分を蓄える胚乳(内乳)の痕跡も観察することができます。

 現在のトリメニア科植物の種子と比較すると,化石ではよく発達した胚乳(内乳)がみられ,さらに胚珠の背線から伸びる維管束系の発達にも違いがみられます。このため研究グループは,この種子がトリメニア属とは異なるトリメニア科の新属新種ではないかと考えています。


※2 今回の北海道の化石は石灰質のノジュール中に植物の組織が残されています。この種の保存様式は,印象化石や炭化(圧縮)化石と区別して鉱化化石といいます。

 鉱化化石の観察には,ピール法という方法が有効です。岩石標本ではダイアモンドカッターでスライスしたものを更に研磨して薄片をつくりますが,この方法はスライス時,また研磨時に失われる石片が多く,種子などの小型化石の観察には向いていません。

 ピール法では植物化石のある面を先ず平らに研磨し,その表面を塩酸などの腐食性の溶液で僅かに溶かします。植物組織が薄い層状に浮き出してきたところで水洗いし,乾燥させた後,その面にアセトンをたらしてアセチルセルロースフィルムを被せると,植物組織をフィルム内に封入する形で剥ぎ取ることができます。剥ぎ取った面に対して同じ作業を繰り返すことで,連続的な切片を得ることができます。

 剥ぎ取りフィルムは現生植物の切片と同様にスライドガラス上に封入し,顕微鏡で観察することができます。




写真:剥ぎ取り切片のプレパラート

より詳しく知りたい方のために
BMCエボリューショナリーバイオロジー(英文)