2008-06-01

ダイトウウグイスの巣と卵の発見・撮影に成功 (協力:附属自然教育園 濱尾章二)


『絶滅』から『再発見』へ―ダイトウウグイス『消失』の謎

 1922年の発見から80年近くの長きにわたって『絶滅』とされてきたダイトウウグイス。『再発見』以来続けられてきた調査で,絶滅が危惧されるほどに個体数が減ってしまっている訳ではないこと,喜界島や沖縄本島など複数の島に比較的普通に生息する鳥であることがわかってきました。それでは何故『再発見』までに,これほど長い時間が掛かってしまったのでしょうか?

 理由は主にふたつあります。ひとつは先にも触れたように,人間の接近を容易に許さない藪の中に生息していることです。北海道から九州に生息するウグイスでも,藪からほとんど出て来ないため,毎年のように声を聞くことはあっても姿を見ることは稀ですがそれとほぼ同じ状況といえます。

 もうひとつの理由は,日本に生息するウグイスの亜種の分類からきています。
 日本付近に生息するウグイスは,樺太以北及び北方領土に生息し,他と比べて灰色がかった亜種カラフトウグイス,北海道から九州まで広く分布する亜種ウグイス,小笠原諸島に生息し,嘴の長い亜種ハシナガウグイス,そしてカラフトウグイスと同じく灰色味の強く,南西諸島に生息する亜種リュウキュウウグイスの計4つが知られています。
 南西諸島に現存しているウグイスは,リュウキュウウグイス1亜種のみだとこれまで信じられてきました。しかし1975年から1999年に掛けて行われた調査で,沖縄本島で灰色のウグイスに混じって,赤褐色のウグイスがいるのが見つかりました。冬期に捕獲された個体では,灰色のものが赤褐色のものの数倍いました。ところが春から夏に掛けての繁殖期になると,たくさんいた筈の灰色の個体は姿を消してしまいました。そして僅かに残っていたのが,赤褐色のウグイスでした。

 赤褐色のウグイスは何ものなのでしょうか?また灰色のウグイスたちは何処へ行ってしまったのでしょうか?
 灰色のウグイスは本州以北で繁殖するウグイス(亜種カラフトウグイスか亜種ウグイス)なのではないか,という仮説が梶田氏らによって出されています。リュウキュウウグイスは繁殖地で別の亜種名を与えられたウグイスであり,北の地方で繁殖し,越冬のため琉球列島に渡ってきているのではないか,というのです。
 そして赤褐色のウグイスが,ダイトウウグイスでした。1922年に記載されたダイトウウグイスのタイプ標本は戦災で失われてしまったため,赤褐色の個体とつき合わせて確かめることはできませんが,特徴などの記録や記載当時の図版から確認することができました。
 リュウキュウウグイスに比べて数が少ないこと,この地域にはリュウキュウウグイスしかいないと信じられていたことから長く判りませんでしたが,ダイトウウグイスは消えてしまっていた訳ではなく,最初の発見当時からずっと琉球列島で,変わらず生き続けていたのです。