2008-03-01

NEWS展示続報−研究続く鯨類のストランディング (協力:動物研究部 山田格)

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2006年NEWS展示以降のストランディング研究続報
謎の多い種:カズハゴンドウ
ストランディング調査の実際
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2006年NEWS展示以降のストランディング研究続報

 国立科学博物館は2006年,NEWS展示『カズハゴンドウ(詳細次項)のマスストランディング(※1)』を開催しました。同年2月28日千葉県一宮町付近一帯の海岸に,約百頭のカズハゴンドウが打ち上げられたマスストランディングを取り上げ,実際に打ち上がったイルカの骨格標本や研究資料などを展示して,カズハゴンドウに何が起こったのか,ストランディングとは何なのかについて紹介および問題提起を行ないました。

 カズハゴンドウのマスストランディングはその前後にも,右表のように複数回知られています。これらのケースを総合的に分析した結果,一宮町の1回のみからは判らなかった新たな情報,新たな謎が見えてきました。
 最近の成果としては,2007年12月,南アフリカケープタウンで開催された国際学会での京都大学の早野あづさ氏や帝京科学大学の天野雅男氏らの発表によれば,基礎的な体長組成やミトコンドリアDNAの調査から,ストランディングしたグループの相互の関係が見えてきました。2001年と2002年に茨城県でストランディングしたグループは,発生時期は異なりますが同じ群れの個体と考えられます。その一方で同じく2001年に種子島にストランディングしたのは,それとは異なる群れに属する個体である可能性が高いことも判りました。

 現在問題になっている謎は,本来ハワイやフィリピンなど,熱帯・亜熱帯の海に棲息するカズハゴンドウが何故,温帯域の日本で打ち上げられるのか,ということです。しかもストランディングの時期が,全て海水温の低い,冬であることも説明がつきません。
 熱帯の海と日本の海を繋ぐものに海流の黒潮があります。黒潮は非常に流れが速く,マグロやカツオなどの回遊魚のほか,多くの熱帯の魚などを日本近海まで運んできます。カズハゴンドウもこれに乗って日本に辿り着き,冬の水温の低下によって体力を奪われたのかも知れません。
 しかしもしカズハゴンドウが黒潮に乗ってきたのだとすれば,茨城と種子島のグループは同じ群れ由来でも良い筈です。それぞれのグループがどこからやって来たのかは今も謎のままです。

 そもそもストランディングは何故起きるのでしょうか?NEWS展示でもご紹介した,幾つかの説を振り返ってみましょう。
 2006年1月,2月のストランディングでは,いずれも発生前,沖合いにシャチの群れがいたという証言があります。シャチから逃げようとパニックを起こし,浅瀬に近づき過ぎてしまったのかも知れません。
 2004年,ハワイ・カウアイ島でカズハゴンドウの群れが入り江に迷入したことがありました。同時期に沖合いで演習を行なっていた海軍の潜水艦のソナーに驚いたものと考えられ,演習が終わると入り江から出て行ったことが判っています。

 右表に上げたストランディングの現場は全て,遠浅の砂浜です。ハクジラのなかまはソナーのように超音波を発して対象物からの反射を感知し,地形を認識していますが,遠浅の砂地では超音波が複雑に反射・吸収され,地形を把握しにくくなります。
 クジラ・イルカは尾びれを縦に振って泳ぐため,1度浅瀬に入り込んでしまうと尾が底に当たって泳ぎにくくなるとも言われます。

 このように,ストランディングの原因については未だ諸説あります。全てのストランディングの原因が共通しているという訳ではなく,それぞれに異なる理由があるようにも思えます。
今後とも個々のストランディングそれぞれについて,また複数のストランディングを総合的に調査を続けてデータを蓄積し,原因の解明に向けた努力が続けられていく予定です。


※1 ストランディングとは,本来海に棲息しているクジラ・イルカなどの鯨類やアザラシ・オットセイなどの鰭脚類,ジュゴン・マナティなどの海牛類などが,生死を問わず海岸に打ち寄せられたり,湾や河口に迷い込んだりする現象のことです。特に母と子以外の複数の個体がまとまって打ち上げられることを大量座礁「マスストランディング」といいます。人間の漁具などに掛かったような場合は「混獲」として区別しています。

イラスト:カズハゴンドウ(渡辺芳美)

より詳しく知りたい方のために
国立科学博物館海棲哺乳類データベース

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