2008-02-15

鳥たちにも「流行」がある!? つがい相手選びと性選択 (協力:動物研究部 西海功)


毎年変わるメスたちの好み

 2月14日はバレンタイン・デーでした。男性の皆さん,意中の女性からチョコレートは貰えましたか?
 贈り物で,ことばで直接伝えたり,いつもよりおしゃれをしたり教養を磨いたりして好きな人に選んで貰えるように努力をしたりと,私たち人間の恋の表現はとても複雑です。
 相手を気に入る理由も様々。一番大切なのは顔だという人もいるでしょう。顔よりも性格の良い人がいい,という人もいるでしょう。筋肉のある人がいい,運動のできる人がいい,勉強のできる人がいい,お金のある人がいい…
 好まれる顔にも流行り廃りがあります。平安時代の絵巻物や江戸時代の浮世絵・美人画を,今流行のイケメン,グラビアアイドルと見比べてみると,各時代で好まれる顔が全く違っていることに気づかれることでしょう。

 実はこのような『好みの違い』や『好みの流行り廃り』は,人間だけの特徴ではないことが最近わかってきました。
 アメリカ,カリフォルニア大学サンタクルズ校のA. S. Chaineらのチームは,アメリカ大陸中西部・グレートプレーンズに生息する小型の渡り鳥,カタジロクロシトド(※1)を5年間に渡って観察し,メスがつがいの相手として好むオスの身体の大きさや色,模様など,外見の特徴を調査しました。その結果,メスがつがいの相手に求める「見た目」の条件が年ごとに大きく変化したこと,メスは良い縄張りを持っているかどうかや健康かどうかなどの条件よりも,その年流行の見た目かどうかを重要な基準としてオスを選んでいるらしいことが示唆されたのです。

 これまで,鳥のメスは常に同じ基準でオスを選択していると信じられてきました。例えばインドクジャクでは尾羽(上尾筒)がより長く,目玉模様の数の多いオスが選ばれ,多くの子孫を残すことができます。この「好み」は長期に渡って変わらず,その結果インドクジャク全体として,オスの尾羽はより長く,目玉模様はより多くなっていったと考えられます。
 一方の性(多くの場合メス)につがいの相手として好まれるかどうかでもう一方の性の外見的特徴が変化していく ― これは進化論の重要な概念のひとつ,性選択(性淘汰 ※2)の1つの現象です。

 カタジロクロシトドのようにメスの好みに「流行り廃り」があることは,その生物の外見的特徴にどのような影響を及ぼすのでしょうか?クジャクのような「安定した好み」を持つ生物と比較した,柔軟な性選択の効果を紹介します。


※1 カタジロクロシトド(Calamospiza melanocorys)はホオジロの仲間の渡り鳥で,アメリカ西部・コロラド州の平原,丈の低い草地で繁殖します。体長は14〜18センチ,羽を広げると28センチ,重さ30〜50グラムと,スズメより少し大きい小鳥です。メスは灰味がかった茶色,オスは黒い羽に白い斑模様があるのが一般的ですが,オスの色の濃さはメスに似た灰色から真っ黒まで様々で,また模様の大きさや形も1羽1羽違います。嘴は短く,太く青みがかっていますが,この大きさも個体によって様々です。

※2 ここに登場した鳥たちを含めて多くの生物種では,種内のオス,メスの個体の数やオスメスそれぞれが異性とつがうことができるチャンスは同じではありません。メスの方が数が少ないことが多く,しばしばオス同士の間で交尾の機会をめぐる争いが起こります。
 シカやセイウチなどのように実際にオス同士が角や牙で直接争うこともあれば,クジャクの羽や一部の鳥の鳴き声のように,より美しいオス,良く目立つオスをメスが選択する場合もあります。この結果前者では強いオス,後者では美しい,目立つオスが多く子孫を残し,その特徴が子に引き継がれて顕著になっていったとするのが性選択の考え方です。

写真:カタジロクロシトド(Calamospiza melanocorys)成鳥,オス
Copyright © Nebraska Game and Parks Commission. All rights reserved.

参考:A. S. Chaine, B. E. Lyon, Science 25, 459 (2008)