日本人の顔の進化 縄文から現代まで

 顔の骨では、噛むための筋肉(咀嚼筋)の力が強く加わる部分は、緻密質が厚くなり、海綿質にも太い針状の骨梁が発達し、頑丈な構造になっている。縄文時代人と生きている現代人のレントゲン写真を比べると、骨の構造は縄文人の方がはるかに頑丈なことがわかる。たとえば、前から見ると、下顎骨の下縁の緻密質は縄文人の方が厚く、文字通り緻密である。横から見ると、縄文人では上顎骨の前歯(切歯)の植わっている歯槽骨が上後方に向かって厚く三角形に広がっているが、現代人ではその部分の歯槽骨が薄く湾曲している。現代人では、硬い食物を咬み切ろうとしたら、歯槽骨が折れてしまいそうだ。
 一般に、咀嚼筋が発達すると顔が広くなる傾向がある。昔の人々は、硬い食物を食べていたので、顔が広く骨も厚く頑丈だった。しかし、時代が進むにつれ徐々に軟らかい食物を食べることが多くなったので、顔が細長くなり、骨も薄く弱くなった。
 縄文人の顔は縦と横が同じくらいの四角で立体的なキリッとした顔立ちである。歯の咬み合わせも毛抜き状であり、硬い干肉でも簡単に咬み切れただろう。古墳時代人の顔もかなり幅広で丸四角であり、エラが張っている人も多い。しかし、咬み合わせは鋏状で、あまりよく咬み切れなかっただろう。米を食べ始めた影響が現れている。江戸時代人の顔はやや細長くなっており、長円というところ。歯槽骨が後退して出っ歯(反っ歯)が目立ち、うまく咬み切れなかったはずだ。
 江戸時代には、数百人に一人くらいの割合で細長い瓜実顔の人がいた。鼻筋も通っていて、女性だったら浮世絵のモデルになったことだろう。現代人の若者の中には著しく細長い顔がしばしばあり、歯槽骨の退縮により歯並びが悪くなっている。親不知(第3大臼歯)が生える場所が狭くなり、生えられなくなったり、横に生えたりすることも多い。また、下顎骨が伸びすぎて下顎歯が前に出る咬み合わせ(反対咬合)も起こりやすい。
 頭と顔のバランスという意味では、頭が広くなり、顔が狭くなる傾向があるので、頭と顔の幅の差が時代とともに目立ってくる。実は、頭の幅が増える原因はよくわかっていない。頭は脳の容れ物なので、他からの制約がなければ頭が球形に近い方が脳にとっては居心地がよい。そこで、最近では側頭筋による横からの締め付けが弱いので、頭が丸くなったといわれる。また、平らな枕の普及によって、後頭部が押されて丸くなるとも考えられる。

縄文時代人男性
(標本・国立科学博物館/撮影・神奈川歯科大学放射線科)

古墳時代人男性
(標本・国立科学博物館/撮影・神奈川歯科大学放射線科)

江戸時代人男性
(標本・国立科学博物館/撮影・神奈川歯科大学放射線科)

江戸時代人女性(華奢な庶民)
(標本・国立科学博物館/撮影・神奈川歯科大学放射線科)