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明暗と色彩は光によって生じる現象である。光は、われわれ人間に生を与えてくれる根源であり、光に対する感情は生物的本性からいっても特別のものである。
この光り輝くものに人間が魅了され、それに対して祈りの感情を持つのは当然のことである。古今東西の宗教絵画、宗教彫刻などにおける黄金の多様は、光というものが祟高さに置き換えられているからだと考えられる。
ルネッサンス絵画の歴史を眺めると、このような即物的に光を導入する金箔の使用を拒否する方向へ進んでいく。すなわち、金箔を用いず、光そのものをみずからの手で創造しえないかと考えたに違いない。現実の世界がどのように見えるかということで、視覚の優位性が前面に出てくる。その結果、目に見える自然世界の部分と全体の諸関係を見つめ、その比例関係を探り、画面という世界にその諸関係を置き換えて表現していく。
ルネッサンスからバロックにかけて、対象物そのものから対象物が置かれている空間を重要視するにしたがって、明暗の諧調による空間の表現が現れる。このような明暗法の流れは、19世紀の印象派絵画にまで受け継がれ、その後さまざまな展開を示す。
光、それによって生じる明暗と色彩は、いつの時代の画家たちにとっても、みずからの制作に直結する問題である。それによって、新たな表現様式が生まれるといってよい。
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