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ディープな魚類の分類学 -ゲンゲ類の研究-

篠原 現人

 相模湾の近くで育ったことから、知らない間に魚類の世界に魅了されていました。子供のころは食べるのだけが苦手でした。高校生の時に読んだ末広恭雄博士の「魚と伝説」で魚類の学術的な世界にも興味をもちました。生物学としての魚類学に強く惹かれたのは大学の時に出会った2 冊の本がきっかけでした。1 冊は内田恵太郎博士の「稚魚を求めて -ある研究自叙伝-」で、もう1 冊は西村三郎博士の「日本海の成立 -生物地理学からのアプローチ」です。日本の魚類研究者にはこれら2 冊に影響された人が少なくありません。
  博物館に就職した最初の年に、水産研究所の深海トロール調査に参加しました。その時に、深海から名前がわからないゲンゲ類が大量に採集されました。ゲンゲ類は水産学の研究者にとってやっかいな魚です。トロール調査では漁場の環境評価をするために、捕れた魚の全種類を査定することがありますが、日本のゲンゲ類は分類の仕事が他の魚に比べて非常に遅れていました。そこで水産学にも役に立つ分類学が必要と感じ、研究を開始しました。

また当館では私が就職する数年前から「深海動物相の解明と海洋汚染に関する研究」プロジェクトが始まっており、ゲンゲ類の分類は日本の深海魚類相の解明には避けて通れないというもうひとつの理由もありました。
標本と様々なゲンゲ
「深海動物相の解明と海洋汚染に関する研究」の論文集
「深海動物相の解明と海洋汚染に関する研究」の論文集
 ゲンゲ類の分類はロシアやアメリカでも行われています。新種や日本初記録の報告には、時には海外の研究機関に保管されている基準標本との比較や、個体変異を知るために大量の標本との比較が必要になります。過去の報告などにも注意を払い、文献調査も綿密におこなわなければなりません。骨格系やDNA の情報などを利用することもあり、常にディープな仕事が求められます。

ゲンゲ類は体に派手な色もなく、体型も「のそ〜」として野暮な魚に見えますが、種類も多いので深海魚の進化を知るために大変貴重な魚類です。日本周辺には名前がわからない種が沢山残っていますので、現在標本を集めながら調査を進めています。
日本の深海にいる正体不明(学名不詳)のゲンゲたち
日本の深海にいる正体不明(学名不詳)のゲンゲたち
魚類標本について詳しく知りたい方は筆者が出演したサイエンスチャンネル「科学標本の世界 (2)魚の標本 標本でわかる魚のこと 」(放送時間:14分 制作年度:2008年)もご覧ください。番組は下記サイトでダウンロードできます。
サイエンス チャンネル

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篠原 現人(しのはら げんと)

篠原 現人(しのはら げんと)

脊椎動物研究グループ
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