>> 理工学研究部「私の研究」一覧へ戻る

隕石が語る太陽系の始まり

米田 成一
つくば隕石の火球(石田哲美氏撮影)
つくば隕石の火球(石田哲美氏撮影)
隕石が落ちてくる

隕石は大気との摩擦で大きな火の玉(火球)となって落下してきます。表面は融けて黒い溶岩のような皮ができますが、実は内部はほとんど温度が上がらないまま、地上に到達します。ですから、隕石は宇宙空間のほぼそのままの姿を残しているのです。

ところで、「地球は約46億年前に生まれた」とどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、地表にはそんなに古いところは残っていません。これは、地球内部が熱く活動的であるために、地球の表面は絶えず作り直されているためです。もっとも古い岩石の中から取り出したもっとも古い鉱物でも、約42億年前にできたものです。それでは、どのようにして地球の年齢が46億年であると分かったのでしょうか。実は隕石の年代から推定されているのです。太陽も地球も、そして隕石の元である小惑星も、宇宙を漂う塵やガスからほぼ同時に生まれました。小惑星は地球のような大きな惑星にならなかったために、生まれた当時の状態をよく残しています。
隕石を調べることによって、太陽系がいつ生まれ、どのように進化してきたのかが分かってきました。
つくば隕石1号
つくば隕石1号
アエンデ隕石(横幅約14cm)
アエンデ隕石(横幅約14cm)
太陽系最古の固体

写真はメキシコに落下したアエンデ隕石の断面ですが、直径が1cmから数mmの丸い粒や白い部分がたくさん入ってます。
丸い粒は「球粒」、白い部分は「白色包有物」と呼ばれています。このような球粒隕石は宇宙空間でばらばらにできた球粒や包有物が塵と一緒に集まって押し固められてできたものです。

中でも、白色包有物は太陽系最古の年代を示し、ウランの壊変を利用して45億6720万年前(誤差は±60万年; Amelinら 2002)にできたという結果が得られています。 包有物が白いのはカルシウムやアルミニウムといった加熱されても蒸発しにくい元素が集まっているためで、このような元素が一番最初に固体になったわけです。
これは熱力学的平衡から理論的にも求められています(米田と Grossman 1995)。
平衡凝縮理論で計算された固体の組成と温度の関係(米田とGrossman 1995)
平衡凝縮理論で計算された固体の組成と
温度の関係(米田とGrossman 1995)
質量分析計
質量分析計
隕石の年齢を調べる

年齢を決める年代測定法には様々な方法がありますが、46億年という長い時間を精度よく決めるには、半減期の長い放射性同位体の壊変を利用します。半減期というのは放射性同位体が壊変して減り、元の数の半分になるのに必要な時間です。例えば、ウランの同位体U-238は約45億年で半分に減っていきます。この減った量を測定できれば、どれくらい時間が経ったかが分かるのです。実際には、減った量を測定するよりも、壊変してできた同位体(U-238の場合は鉛の同位体Pb-206)がどれだけ増えたかを測定する方が一般的です。この時、壊変とは関係のない同位体(例えばPb-204)と比較すると測定が行いやすくなります。

同位体の測定は質量分析計によって行います。写真は理工学研究部に設置されている質量分析計です。その下の図はその模式図で、左にあるイオンソース部に、測定する元素を取り出した試料をセットします。この装置では試料を金属リボンの上に塗って、金属リボンに電流を流すことで、ちょうど電球のように白熱させ、測定する元素を真空中にイオンとして放出させます。放出されたイオンを高圧の電場で加速して、途中にある電磁石の中を通します。この時、磁場からの力でイオンは曲がっていきます。曲がりやすさはイオンの重さで変わるので、同じ元素でも重さの違う同位体が分かれて、右側のコレクターに到着します。それぞれのコレクターに到達したイオンの量を電流として測定することにより、同位体の量比を求めることができます。

実際の測定では、質量分析計で測定する準備のために、目的の元素だけを取り出す化学分離の方が、測定そのものよりも手間と時間がかかります。
模式図
試料を塗布する金属フィラメント
試料を塗布する金属フィラメント
マグマから固まってできた隕石(アングライト)
マグマから固まってできた隕石(アングライト)
太陽系初期と惑星形成

球粒は宇宙空間で塵が融けて液体となったために、雨の粒と同じように表面張力で球形になったものです。 融けた原因ははっきりしていませんが、ショックや雷、太陽の活発な活動などが考えられています。 いずれにしても、初期の太陽系はかなり活動的であったことがうかがえます。 そして球粒の年代から、その期間は包有物ができてから数百万年程度であると推定されています。

では、地球などの惑星の形成はいつ頃でしょうか。落下する隕石の約5%には、地球の岩石と同じようにマグマから固まってできたと考えられる隕石があります。元になった小惑星が他のものより塵をたくさん集めて大きくなり、内部が融け始めてしまったためと考えられています。これの大規模なものが惑星となったわけです。このような隕石の絶対年代は最も古いもので45億5780万年(誤差は±40万年)というものが見つかっています。すなわち、太陽系最初の固体から惑星の元ができるまでに、わずか1000万年程度しかかかっていません。写真はこの種類の隕石ですが、黄緑色の大きなカンラン石の結晶が見られることから、確かにマグマから結晶したことが分かります。ここからさらに地球程度の大きさになるには、5000万年から1億年かかったと考えられています。
我々の研究室では現在、セシウムの消滅核種Cs-135を利用した年代測定法によってこのような太陽系の進化を詳しく調べる研究を進めています(日高と米田 2006など)。
黄緑色の大きなカンラン石の結晶が見える
黄緑色の大きなカンラン石の結晶が見える
展示ポスターはこちらから
米田 成一(よねだ しげかず)

米田 成一(よねだ しげかず)

理化学グループ

>> 理工学研究部「私の研究」一覧へ戻る