シリーズ第6回

ベトナム海洋研究所の博物館

執筆:篠原現人


ベトナムは日本と同様に南北に細長い国です。南部は熱帯に位置していますが、北部では冬になると気温が低くなります。このため環境や気候は変化にとみ、多様な生物がたくさん生息しています。ベトナム南部の北緯12度のあたりに位置するニャチャン(Nha Trangと綴る)は、観光地として有名な地域で、ヨーロッパからの旅行者がダイビングなどのマリンスポーツを楽しんでいます。

ニャチャンには国立の海洋研究所があり、その敷地の一画に2階建ての博物館があります。メインの展示品は海洋動物の液浸標本で、天井まである棚に整然と並べられています。標本自体は展示用に集めたものではなく、研究資料を利用しているようです。液浸標本のさだめですが、ほとんどの標本には黒や褐色以外の色は残っていません。ここを訪れた人は液浸資料庫に迷いこんだかのような錯覚に陥るでしょう。しかし、一般の人は液浸標本を一度にこんなにたくさん見る機会はまずないでしょうから、研究機関の雰囲気を味わえる面白い場所かもしれません。日本は地震の心配があるので高いところに標本瓶をおきませんが、この博物館の展示をみていると、地震がないことが良くわかります。2階は、液浸標本のほかに剥製や乾燥標本が陳列され、規模こそ小さいですが解説パネルでさまざまなテーマが説明してあり、ベトナムの子供たちの勉強の場になっています。

国立科学博物館の研究者は2001年〜2003年にベトナムの研究者と一緒に浅海性動物の調査を行い、毎年1〜2週間この海洋研究所にお世話になりました。採集した海産動物の標本整理や写真撮影のために、博物館とは別の建物の一画を利用させてもらいました。ニャチャンの美しい浜辺からは想像もつきませんが、ベトナムは第2次大戦後にフランスやアメリカと長期に渡って戦いを続け、多大の犠牲を被りました。にもかかわらず、多くの標本や文献を海洋研究所に保管しているのですから、ベトナムの人達の底力には感心させられます。