博物館紀行


Database for Aquatic-vertebrate Science
シリーズ第1回
フランス国立自然史博物館
パリの国立自然史博物館のグランドギャラリー。この右側に図書館と標本館がある。







フランスのパリにある国立自然史博物館は、世界中から収集した多くの貴重な標本を所蔵しています。魚類部門の人たちは研究と標本管理に情熱を傾けています。近代的な設備を備えた地下の標本室には18世紀に採集された標本が良好な状態で保管されています。標本の管理に細心の注意を払っていることがよくわかります。「フランスは文化の国」といわれる所以でしょう。

この博物館は標本を保管するだけでなく、新しい標本の収集にも非常に熱心です。ニューカレドニアをはじめとして世界の海で魚類標本の採集を精力的に続けてます。

また、図書の収集と維持・管理にもまことに熱心です。図書の資産は分類学にとって標本と並ぶ貴重な財産です。出版物を収集・保存し、整理しておかなければ博物館の標本も活用できません。国立自然史博物館の図書館は標本館の隣にあり、図書のデータをコンピュータの画面に呼び出せるようになっています。たとえば、古い本の図版を画像として呼び出し、図版には手を触れずに研究することもできます。これは古書の保存・管理にはまことに便利です。古書の中でも重要な情報をもつものについては、新たな処理をして利用しやすいように工夫がされています。たとえば、古い本の図版の中には魚の図に通俗名しかついていないものがあります。これを学名で検索できるようになっています。聞いてみると、図書館の司書と研究者の協力によって、図版の学名を調べる作業を行っているのだそうです。私も滞在中に魚類部門の研究者からフグ類の図版を撮影した2枚のスライドを見せられ、種名がわかったら教えてほしいと頼まれました。明瞭な図版であったので、種名を答えることができましたが、ものによっては図版だけではどうにも名前がわからないこともあります。博物館に専門家がやってくると、不明な図版については問い合わせて情報を蓄積しているのです。根気と人手、そして金のかかる仕事です。歴史的遺産を後世によりよい姿で継承しようという意気込みを感じます。フランスの底力を改めて思い知らされました。


パリの国立自然史博物館の魚類標本室。