シリーズ第7回

米国国立自然史博物館

執筆:篠原現人


ワシントンDCにあるスミソニアン協会の米国国立自然史博物館の魚類標本を2005年3月〜11月の8ケ月間かけて調査してきました。この博物館には約400万個体という世界一の数を誇る魚類標本コレクションがあります。また古い日本産の魚類標本もあり、ペリー提督が4隻の戦艦で日本に開国を迫った際に持ち帰ったものや、1900年前後に科博の前身である東京教育博物館が寄贈したものなどが大切に保管されています。この博物館の魚類部門には、9名の研究者、7名の専門技術者がおり、特に専門技術者たちは、魚類標本の受入、登録、整理、貸出などの仕事を行っています。米国国立自然史博物館は、欧州の博物館に比べると歴史が浅いのですが、研究者の数や質、コレクションの充実度や管理実績などで、自他共に認める世界のトップクラスの研究所となっています。

私は調査の合間に展示も楽しみましたが、特に印象深かったのは1階の哺乳類の展示でした。今にも動き出しそうな剥製が床から天井ちかくまで上手に設置されていました。魚類を含む海洋生物の大掛かりな常設展は準備中でしたが、他の生物や鉱物(特に宝石)の常設展会場がいつも来館者で賑わっていました。ほとんどの展示が楽しめるものでしたが、ゴキブリ関連の展示だけは少々...。なお希望者には生きたこの虫を触らせてもらえます。

滞在中に一度だけ進化論に関係する一風変った博物館セミナーにも参加しました。おそらく大多数の日本人にとっては感覚的にわかりにくいでしょうが、進化論を信じていない人が米国にはたくさんいます。極端な創造説の支持者は、米国内にある自然史系博物館を神の知的な設計(=インテリジェント・デザイン)を学ばせる場所にすべきだという大規模なキャンペーン活動をおこない、研究や科学教育に携わる博物館のスタッフに脅威を与えています。博物館関係者たちは、先の見えない論争にうんざりしながらも、自分たちの仕事の将来に大きく関わるため、討論会や集会に足繁く通っていました。