データベース


Database for Aquatic-vertebrate Science

データベースとは何か

執筆:松浦啓一


データベースは多くのデータを集めて整理し、必要に応じてデータを検索できるようにした物です。図書館に行くと、図書カードやコンピュータを利用して、読みたい本を探し出すことができます。これは身近にあるデータベースの一例です。

博物館も図書館に似た機能をもっています。整理して保管されている博物館の標本は、それ自体がデータベースです。標本は分類体系にしたがって配列されているので、専門知識をもった研究者ならば、必要な分類群を簡単に探すことができます。しかし、標本の検索条件は研究目的によって変わります。魚類の分布や生態を研究する場合には、採集地とか採集年月日、あるいは採集場所の環境など、特定の条件を設定して標本を検索することもあります。たとえば「沖縄県石垣島で採集された魚類」とか「砂地で採集された魚類」という条件に合うすべての標本を探すのは簡単ではありません。標本データがコンピュータに入力されていないと、このような探索作業には多くの人手と長い時間が必要になります。世界中の博物館は、標本をなるべく多くの条件で検索できるようにするため、そして標本管理を合理的に行うために標本のコンピュータ管理を進めてきました。そして、それにともなって標本データの記録方法も進んできました。

標本のデータベース
18世紀後半から19世紀にかけてヨーロッパで博物館が誕生した当時は、標本データの項目は少数でした。標本の学名、標本数、採集地、採集年月日、採集者、同定者などが一般的な標本データでした。これらの項目があれば当時の研究にとっては十分でした。しかし、研究が発展するにつれて、より多くのデータが必要になってきました。そして、データ項目に標本の大きさ、採集時間、採集地の環境などが加わるようになりました。1970年代後半から1980年代始めにかけてコンピュータが標本管理に使われるようになると、データ項目の数が非常に多くなりました。国立科学博物館の魚類標本用入力項目は50以上あります。




このように詳しいデータが入力されていると、コンピュータを駆使して標本から様々な情報を引き出すことができます。どの博物館にどのような種類の魚類標本が保管されているか、ある地域で採集された魚類標本はどこの博物館にあるか、そして特定の大きさの標本がどこの博物館に保管されているかなど、研究者にとって非常に便利な標本検索を行うことができるようになりました。

標本データベースとは別に文献に基づいたデータベースも作られています。カリフォルニア科学アカデミーのエッシュマイヤーは、これまでに発表された魚類の学名に関する巨大なデータベースを作り上げました。学名が発表された文献を収集するだけでも大変な仕事ですが、彼とその仲間たちはタイプ標本を調べたのです。全世界に魚類は2万種以上いるのですから、そのタイプ標本を調べる作業がいかに大変かがわかります。このデータベースには、学名が発表された文献の著者名、出版年、標題、出版物の名称、タイプ標本が保存されている博物館、タイプ標本の登録番号など分類学的研究にとって大切な情報が満載されています。

魚類に関する文献に基づく大きなデータベースがもう一つあります。それはフィリピンにある国際的な組織イクラーム(ICLARM)が作ったフィッシュベース(FishBase)です。このデータベースには魚類の学名、通称、図、分布、生態、資源量などの豊富な情報が収録されています。世界中の魚類学者の協力を受けて、フィッシュベースは魚類に関する情報を蓄えつつあります。

このように、データベースは完成するとまことに便利なものですが、標本データベースも文献データベースもコンピュータ入力には人手と経費、そして時間がかかります。扱う標本の数や文献が多ければ多いほど、データのコンピュータ化により多くの時間と経費がかかります。そして、一方では新しい標本が次々と収集され、多くの文献が出版されます。博物館や国際組織は、自然史研究を発展させるために、標本や文献の収集や管理を休むことなく続けているのです



Catalog of Fishesのサイトから魚類の学名に関する巨大なデータベースを利用できます。


FishBaseのサイト