標本に関すること


Database for Aquatic-vertebrate Science

魚類コレクションの歴史と現状

執筆:松浦啓一

国立科学博物館は1877年(明治10年)に東京の上野公園に設立されました。設立当時は教育博物館と称し、約500点の魚類標本を保有しているに過ぎませんでした。その後、名称は東京教育博物館に変わり、標本も増えました。しかし、1888年(明治21年)に博物館が縮小されたため、魚類を含む多くの標本が1889-1890年に帝國博物館(後の東京帝室博物館、現在の東京国立博物館)へ譲渡され、当館は湯島(お茶の水)に移動しました。



当時の標本台帳の拡大:登録番号11のマフグ
当時の標本台帳の拡大:登録番号11のマフグ

1880年出版のカタログ
1880年出版のカタログ
最初の標本台帳
最初の標本台帳

最初の標本台帳に記載された廃棄標本、関東大震災で失われた標本や移管された標本の記録
最初の標本台帳に記載された廃棄標本、関東大震災で失われた標本や移管された標本の記録

当館は1921年(大正10年)に名称を再度変えて、東京博物館と呼ばれるようになりました。その直後の1923年(大正12年)に関東大震災が起こり、当館は建物も資料も失いました。震災後、新しい建物の工事が始まり、1930年(昭和5年)に完成しました。また、東京帝室博物館から魚類を含む自然史標本が1924-1925年(大正13-14年)に当館に引き渡されました。この当時の魚類標本は約3000点でした。戦前の当館は研究活動に重きを置かなかったため、魚類コレクションはほとんど増加しませんでした。 

戦後、当館は国立科学博物館として再出発しました。研究部も整備され、1963年(昭和38年)に新井良一が初めての魚類研究者として着任しました。さらに1965年(昭和40年)には、友田淑郎が2番目の研究者として着任し、徐々に魚類コレクションも充実してきました。そして、1969年(昭和44年)に資源科学研究所が当館に吸収合併されて、日本産淡水魚類の研究者として著名な中村守純が同研究所から当館へ移動しました。同時に資源科学研究所の膨大な淡水魚類コレクションも移管され、当館の魚類コレクションは一挙に100万個体以上の標本を有するようになりました。また、当館が実施している「日本列島の自然史科学的総合研究」プロジェクトによって日本各地の魚類が収集されてきました。

1979年(昭和54年)には中村守純が退職し、松浦啓一が着任しました。松浦は海産魚類の調査・採集にたびたび海外へ出かけたり、国内外の研究者や研究機関に協力を呼びかけました。その結果、海産魚類コレクションは1980年代半ばから急速に増大しました。1987年(昭和62年)に友田淑郎が退職し、1995年(平成7年)には新井良一が東京大学に移動しました。そして、同年に篠原現人が着任しました。

当館が1990年代前半までに実施した海外学術調査によって、ミクロネシアやタイ、フィリピン、ソロモン諸島、マーシャル諸島、ギルバート諸島、インドネシア、中国から多くの魚類標本が採集されました。さらに、中央水産研究所が西部太平洋で収集した深海性魚類の大きなコレクションが当館に移管されました。また、海洋水産資源開発センターの協力によって、大西洋西部のスリナム沖の魚類やニュージーランド周辺の魚類標本が収集されました。遠洋水産研究所からも貴重な魚類コレクションが当館へ移管されました。このように当館の研究者をはじめとして、多くの研究者や研究機関の活動と協力によって魚類コレクションは充実してきました。魚類の多様性や形態学、分類学、生態学など、多くの研究材料として、また自然界の歴史を示す遺産として、当館の魚類コレクションはかけがえのない価値をもっています。

現在、当館の魚類コレクションは約5000種(約150万個体)の魚類標本を有しています。この中には100年以上前に採集された古い海産魚類や高度経済成長前の自然水系で採集された淡水魚類など、貴重な標本も多数含まれています。また、西部太平洋の広い範囲で採集された標本も多く、世界的に見ても貴重な魚類コレクションの一つです。貴重な魚類コレクションは、新宿区にある分館の標本室とつくば市にある資料庫に保存されています。標本は分類体系に沿って配列され、速やかに取り出せるようになっています。毎年、国内・国外の多くの研究者が当館の魚類コレクションを利用しています。標本貸し出しの数も多く、訪問研究者も多数にのぼります。





第一回内国勧業博覧会
第一回内国勧業博覧会
左上が教育博物館

サケガシラのホロタイプ
サケガシラのホロタイプ

ユキフリソデウオのホロタイプ
ユキフリソデウオのホロタイプ

教育博物館
教育博物館

震災によってすべてが消失した博物館
震災によってすべてが消失した博物館

資源科学研究所
資源科学研究所

資源科学研究所の淡水魚標本
資源科学研究所の淡水魚標本


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