スケトウダラに寄生する生物たち


  おそらく多くの人達が寄生生物を遠くはなれた別の世界のものと考えているだろう。ところがそんなことはなく、考えられているよりももっと身近な生物達なのである。
 たとえば魚屋でおなじみのスケトウダラを調べてみよう。ヘモバフェスは鰓に寄生する1cm以上になる甲殻類である。見えているのは体の一部にすぎず、頭部を血管に奥深く突っ込みその先端は心臓にまで及んでいる。鰓から心臓に通じる血管にアポロコティーレという扁形動物、吸虫類の1種がいる。この種類は変わっていて、その他の吸虫類が口吸盤と腹吸盤という2つの吸盤を持つのにたいして、吸盤が全くないグループのものである。肝臓の表面には線虫類アニサキス科の幼虫が、終宿主であるクジラやアザラシなど海の哺乳類に食べられるのを渦巻き状に丸まってじっと待っている。扁形動物条虫類のニベリニアの幼虫はサメの体内で成体になるから、スケトウダラはやはり中間宿主である。腸の中のエキノリンカスは鉤頭虫類で、トゲが生えた 吻を腸の壁に突っ込んでいる。胃の中には2つの吸盤を持った吸虫類のドロゲネスがいる。
 主なものだけでも、スケトウダラにこれだけの生物が寄生しているのは驚きだろう。その他のものを加えるとざっと15種類が知られている。彼等のなかには成虫もいれば幼虫もいる。1種類の魚が終宿主として、同時に中間宿主としての役割を果たしている。前にも書いたがこれらは人間には寄生しない。ただしアニサキスは例外である。

カイアシ類の1種 ヘモバフェス Haemobaphes diceraus 魚類の鰓は外部寄生する甲殻類にとって重要な住み場所で、その種類も非常に多い。この種類の場合見えているのは体の一部にすぎず、頭部を血管に奥深く突っ込み、その先端は心臓にまで及んでいる。(撮影:倉持利明)


吸虫類の1種 アポロコティーレ Aporocotyle theragrae 鰓から心臓に通じる血管内に寄生するこの種類は少し変わっている。一般の吸虫類が口吸盤と腹吸盤という2つの吸盤を持つのにたいして、吸盤が全くないグループの1種である。(撮影:倉持利明)


線虫類の1種 アニサキスの幼生 Anisakis simplex 彼らの終宿主はクジラなど海の哺乳類である。スケトウダラの体内では、肝臓などの表面で渦巻き状に丸まって、終宿主に食べられるのをじっと待っている。これを人間が生きたまま食べると、激しい腹痛を伴うアニサキス症となる。人間は本来の終宿主ではないからこのような病気を起こすのである。(撮影:倉持利明)


条虫類の1種 ニベリニアの幼生 Nybelinia sp. ニベリニアはサメ類を終宿主とする条虫、サナダムシであるから、スケトウダラは中間宿主である。棘の生えた4つの吻を持ち、肝臓などの表面にしがみついている。(撮影:倉持利明)


鉤頭虫類の1種 エキノリンカス Echinorhynchus gadi スケトウダラの腸管内にはあわせて数種類の吸虫類や条虫類、線虫類、そしてこの鉤頭虫類が住む。鉤頭虫類は棘が生えた吻をそなえ、腸の壁に食らいついている。写真:倉持利明


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