ハネカクシ談話会写真集19
―第21回国際ハネカクシ学会議スペシャル―
Photo Album of the Staphylinidological Society of Japan, No. 19
(special version on the 21th Meeting on Staphylinidae
held in Ceske Budejovice, 25-28th May 2006)


=SORRY! TEXT IN JAPANESE ONLY=



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2006年チェコ第21回ハネカクシ会議報告

5月25日 天気曇り時々晴れ

 私にとっては3度目の参加になるが、今年のこの会議はチェコ南部、チェスケ・ブデヨビツェで行われることになった。チェスケ・ブデヨビツェと聞いて、知ってるという日本人は極めて少ないと思うが、実は日本人の多くが、この小都市にまつわる何かをよく知っているはずだ。なぜならチェスケ・ブデヨビツェのドイツ語名は「バドヴァイズ(Budweis)」、そう、アメリカのビール「バドワイザー」の語源になった地名なのである。チェコの地元には「ブドヴァイザー・ブドヴァル」というちゃんとしたブランドがあって、チェコ随一のビールとして有名だが、世界的には、このビールの名産地にただあやかっただけのアメリカビールに負けている。そのことでこの町の人々は非常に複雑な思いをもっているようだ。

 ビールのことはさておき、この町の郊外に位置する南ボヘミア大学が今回の会場であった。この町はウィーンとプラハの中間にあるので、ウィーン経由で車で来た人が多かったようだ。私は成田からウィーンへ着き、一日ウィーンの自然史博物館で標本を見た後、Harald Schillhammer博士が調達したミニバスで、米国のLee Harman博士、ハンガリーのGyorgy Macranczy博士らと25日午後、共にチェコ入りした。チェスケ・ブデヨビツェのホテルでは、Michael Schulke、Volker Assing、Schweninger夫妻、Andreas Kleebergの各氏らとも同宿となった。




Left above: Naturhistorische Museum, Wien (NHMW); right above: an old storage room of NHMW
Left below: a new storage room of NHMW; Dr. Lee Herman in NHMW.


 チェックインした後、南ボヘミア大学へ向かう。歓迎会場のロビーで立ち話していると、続々参加者が到着する。Volker Puthz夫妻とも再会し、別刷やお土産を交換した。オーガナイザーのJaloslav Bohac博士の発声で歓迎会が始まった。車座に並べられた机を囲んで、話し込んだり、ビュッフェで思い思いの食事をつまむ。Ivan Lobl博士やAles Smetana博士の顔も見える。久しぶりに顔を出したStanislav Vit氏の紹介で、Georges Coulon氏と初めて会った。彼は1989年にシュモクアリヅカの大きな論文を書いた後、沈黙しているが、研究は継続しているらしい。調子のいいヤツで、パーティーに呼ばれた歌手のギターを借りて、セッションを始めてしまった。風貌もなんとなくジョン・レノンを意識したもののようだ。




Left above: our hotel in Ceske Budejovice; right above: attendants in Univ. South Bohemia.
Left below: reception; attendants in the reception.






Left above: Mrs. & Mr. Volker Puthz (left), Dr. Ivan Lobl (right); right above: Dr. Alexey Shavrin (left), Dr. Jaloslav Bohac (right).
Left below: Dr. Georges Coulon; Right below: Dr. Hlomadka.


5月26日(金曜日) 天気曇り時々雨

 翌日は午前、午後にわたって口頭とポスターでの発表が行われた。口頭発表は12題。しょっぱなは私の発表で、大変緊張した。他の人に写真を頼み損なってしまったので、ここでその雄姿をご披露できないのが残念だ。続いてCoulon博士がヒゲカタアリヅカ族の属レベルの分類を発表した。いくつかのシノニムが発見されており、非常に参考になる。イルクーツクから参加したAlexey Shavrin氏はバイカル地域のハネ相を報告した。総数707種。飛び入りでフランスのMarc Tronque氏が微小甲虫の撮影法について解説した。ポスターでシリホソやヒゲブトの写真を紹介しており、近くピレネー地域のハネCD図鑑を出す予定とか。ベルリンのAndreas Kleeberg博士は西ポメラニア、メクレンブルク地方のハネ亜科相を調べ、24種とした。ベラルーシのAlexander Derunkov氏は両生類の食物としてのハネカクシを調査した。生きたカエルの胃内容物を分析し、土壌調査との比較によって、Morishitaの多様度とJacobsの選択性指数を使った分析を行った。Volker Assing氏は東地中海地域におけるGeostiba相について報告し、これらをいくつかの亜属に分割した。




Left above: introduction by Dr. Bohac; right above: presentation by Dr. Coulon
Below: attendants hearing a presentation.


 ここでいったん昼食。ビュッフェでサンドイッチや果物をつまみつつ、ポスター発表を見学する。ポスター発表は2題しかなく、昨年に比べるとずいぶんさびしくなってしまった。口頭発表会場に戻ると、地元のJiri Janek氏による、マダガスカルのAdinopsisの話。続いてオスロの博物館に勤めるVladimir Gusarov君は最初、昨年亡くなったSteve Ashe博士への黙祷を捧げたあと、Athetiniの分子系統にかかわる話をしたが、特に何かが明らかになったということではなかった。その後のMichael Schulke氏の中国雲南での採集報告は、白馬雪山と高黎貢山での採集状況を多数の美しい写真で示したもので、皆のため息を誘っていた。




Above: poster presentations.
Left below: lunch time; right below: presentation by Dr. Michael Schuelke.


 コーヒーブレイクの後、Gusarov君がまたぞろ登場し、Scarab Centralなど他の昆虫群の例を挙げて、ハネ界でもメーリングリスト、会議のアーカイブ、さらにはハネカクシのデータベースを作ろうと提案した。質疑を募ったところ、早速Coulon氏から「PCのシステムは絶えず変化し、データの恒久的な保存にはそぐわない」との反論。Assing氏からは「情報交換はグッドアイデアだが、サイトのメンテ、文献のスキャンなどは過重な負担だ」との意見。つまりはオマエがやれ、ということなのだが、自分でやる気はさらさらないというのがGusarov君のGusarov君たるところだ。続いてのErhard Lipkow氏はOHPが使えないというので、口頭のみの発表で牛糞のハネ群集についての話。6倍のモノキュラでウンコを探すというのが面白かった。トリはオーガナイザーのJaloslav Bohac氏が、明2日のエクスカーションで訪れる場所のハネ相について紹介した。両方で1406種ものハネが確認されているとか。これでプレゼンはほぼ時間通りに終了し、最後に次回の幹事役を勤めるシュトゥットガルトのKarin Wolf-Schweningerさんが歓迎の挨拶をした。



Left: presentaion by Dr. Bohac; right: announce of the next meeting by Mrs. Karin Wolf-Schweninger



 それから皆で町へ出て会食となったが、外は冷たい雨が降って翌日のエクスカーションの天気が心配された。町の中心にある古い教会に程近いレストランで名産のビールを痛飲しながら、さらにハネカクシ談義が盛り上がった。とりわけGusarov君の提案がここでも話題になり、とにかく、情報交換だけでもやれないかなどという意見も出たりして、言いだしっぺのGusarov君がどう出るのか、出ないのか、興味は尽きない。11時ごろ、ようやく散会。



Left: the center square of Ceske Budejovice; right: drinking and discussion.



5月27日(土曜日) 天気曇り時々晴れ、後雨

 翌27日(土)は微妙な天気。朝食をとっている間にも青空がのぞいたり、雨が降ったり。8時に大学へ集まると、大型バスが用意してあり、皆が乗り込んで出発。最初はビール工場の見学だった。皆、修学旅行の高校生のようにガイドのお姉さんに引率されて工場を見学する。見学が終わるとかなり怪しい天気になり、雨が降り出した。次に近郊の観光地として有名なフルボカー城に程近い森林公園(game park)へ。一部手が入った森ではあるが、針葉樹とブナ、オークなどの広葉樹が混じった混交林で、どの木もまっすぐ上へ伸びている。採集の手始めに、手近な石や木片を片っ端から起こしてアリの巣を点検したが、まったく何も出てこない。後でLobl博士に聞くと、まだ季節が早いのだろう、という話。何でもこの一帯では、今年はいつまでも雪が残っており、春がはじまるのが遅かったとのこと。アリの巣がダメだったので、土ふるいに切り替えると、Brachyglutaが少し出た。しつこくたたいて5,6頭と、他にBibloporus?、Trimium?など。この間、天気は何とかもったので、少しは採集になった。バスへ戻り、フルボカー城近くのレストランで食事。





Left above: the factory of "Budweiser-Budovar"; right above: excursion in the "game park".
Left below: a forest view of the "game park"; right below: habitat of Brachygluta and some pselaphines.


 4時ごろになって、今度は南ボヘミア大のVomacka field stationへ。ここは連結する車道がないので、一同雨の中、泥だらけの細道を延々歩かされる。ようやく着いたところで雨が強くなってきた。それでもまだ明るいので、私を含め数人はそばの雑木林へ採集に出る。Schulkeさん、Golkowskiさん、Macranczy君、Gusarov君らが根性を見せた。Gusarov君はキノコの下にシートを敷き、キノコに殺虫剤をスプレーするというあくどい手法を披露。こうするとすぐに飛んで逃げてしまうようなデオキノコやシリホソの類も採集できるという。私のほうはなるべく乾いた土をふるって、普通種のBrachyglutaを20頭以上採集した。7時に会場へ戻りパーティー開始。多量のビールとすぐそばで焼かれた豚1頭の丸焼き、それに野菜、ピクルス、オードブルの類で思い思いに楽しむ。ビールもすばらしかったが、Coulon氏が差し入れたスリヴォヴィツェというチェコのお酒が逸品だった。これはサクランボを使って作る蒸留酒で、サクランボの甘い香りが漂う、キルシュヴァッサーのような強い酒だった。9時ごろ散会。雨の中、すっかり暗くなったどろどろの道を、バスへ戻る。





Left: collecting by Dr. Gusarov near Vomacka field station; right: roast pig party in the station.


5月28日(日曜日) 天気曇り時々晴れ、時々雨

 翌日も朝から強い雨。参加者の半分ほどはエクスカーションをあきらめ、三々五々帰路に着いた。私はプラハへ連れて行ってくれるというKabourekさん、同乗者のSmetanaさん、Fikacek君と行動を共にする。Bohacさんの案内で、原生林が見られるというSumavaという国立公園へ向かった。ビジターセンター近くのレストランへ着くが、時間が早く、まだ開いていない。ビジターセンターへ行って、お茶を出してもらいながら、国立公園を紹介するビデオや展示を見学する。時間をつぶしているうちに雨がやんできた。近くの小川が増水してあふれ出している。Gusarov君、Fikacek君が洪水のデブリに興味を示しだし、川のそばまで行ってすくい上げている。見るとチビゲンゴロウやマメゲンゴロウなどの水生甲虫が少し見つかった。彼らはそれを集めて布袋に入れている。Gusarov君はそれを持ち帰ってウィンクラーにかけると言っていた。後からSmetanaさんも加わった。私はまさかこんなことになろうとは思わなかったので、道具の準備ができておらず、大変残念だった。



Collecting from flood debris.



 レストランで食事をしているうちに天気がよくなり、青空がのぞいてきた。早速現地へ向かう。広い草原の中の道を歩いてゆくと、道端の草の上にゾウムシやジョウカイなどの甲虫がいくつも見つかった。それらを拾いながら、だんだんと林に近づいていく。1時間も歩いたところで、登山口についた。上るとすぐにゲートがあり、そこから上が特別保護地域だという。通常は採集禁止地域だが、Bohacさんが採集許可を取ってくれていた。確かにそこはすばらしい原生林で、広葉樹と針葉樹の大木が林立し、倒木もそこいらじゅうに転がっていた。早速採集を開始する。倒木の樹皮をはがすと、甲虫がそこそこ見つかる。赤銅色のオサムシが1頭見つかった。土をふるうが雨の後なのでじっとりと湿っており、アリヅカはまったく姿を見せなかった。Lipkowさん夫妻が斜面を下ってきたので聞くと、その上に展望台があるというので行ってみた。がけの上に突き出た岩山の上から、針葉樹林を眼下にしながら、遠くまでよく見渡せる。さっきまで食事をしていた村も間近に見えた。結局アリヅカは採集できず、オサムシとすばらしい景色だけをお土産に山を下った。

 帰り道でもゾウムシやオオルリハムシのような金ぴかのハムシを多数拾った。これは日本の虫屋連中にはいいお土産になる。すっかり天気が回復した道を戻って、車をとめたレストランへ着く。ここで最後に記念写真を撮って、会議の最後を締めくくった。誰の行いが悪かったんだか、天気と気候にはまったく恵まれなかったが、皆それなりの成果を持ち帰ったのだと思う。次回はたぶん同じ時期にドイツ、シュトゥットガルトで行われるという。オーガナイザーは博物館のWolfgang Schawaller博士が勤め、地元のSchweninger夫妻がサポートする体制で行われる予定とのことだ。




Collecting in Sumava.


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