顎板の取出し方



下顎先端をピンセットで引いてみる

冠部の肉をメスで切り開く

翼状部の肉を離して引き抜く

中央の歯舌を引き抜く

その後,上顎を引き抜く
 胃袋の中ですでに顎板だけになっているものは問題ないが,口球,あるは腕部と口球の残っているもの(消化段階3−4)に関しては,顎板を口球から取出す必要がある.ホルマリン固定された標本では,口球の筋肉が収縮し,容易に顎板を取り出すことの出来ない場合が多い.この際,無理して顎板を取出すと翼状部や側板などが破損しやすいので注意を要する.下記の方法を参考にして,破損しないように取出す.

1.頭腕部の中に口球が残っている場合,先ず頭腕部から口球を取出す.この際,腕の基部をハサミで切り離すと比較的容易に取出せる.口囲膜の腕への接続は重要な分類形質なので,口囲膜を傷つけないように口球を取出す.また,口球の後ろに食道が続いているが,無理して引き抜かず,ハサミで切断する.

2.口球は,丸い肉質のボールに上顎と下顎の吻端と下顎の翼状部だけが露出している.ここで,下顎の吻端をピンセットでつまみ,手前に引いてみる.そのまま引き抜けるようであれば,翼状部と側板を破損しないように取出す.下顎が引き抜ければ,上顎も同じように取出せる.上顎を引き抜いた中に,舌状の肉片があり,その上に細かい歯のついたキチン質の歯舌があるので,これもピンセットで引き抜いておく.上顎,下顎,歯舌,口球肉質部,頭腕部があれば頭腕部も一緒にアルコール(70%)かイソプロピルアルコール(40-50%)をいれた容器に保存する.

3.下顎の吻端を引っ張ってみても抜けない場合は,口球ごと1-3%のNaOHかKOHの溶液に数時間漬けておく.ただし,Clarkeも指摘しているように,これらの溶液に長時間漬けておくと,軟骨化部位や翼状部などが溶解してしまうので,口球肉質部がやや柔らかくなったところで取り出し,水洗いをする.

4.この状態でも顎板を引き抜くことが出来ないことが多いが,口球肉質部と下顎翼状部の境に薄い金属板(プランクトン用のピンセットを薄く削ったものあるいは,歯を鈍らせた鎌状のメス)を入れ,両側の翼状部と肉質部を離す.刃の付いたメスは,翼状部を切断してしまう恐れがあるので熟練するまでは使用しないほうが良い.次に,冠部の上を覆っている薄い肉膜を刃の付いたメスで切り開き,側板と肉質部の間に差し込み離す.こうしてから,吻端をピンセットでつまみ,すこし揺すりながら引き抜くと下顎が抜ける.上顎も同じように,金属板とメスで翼状部,側板を肉質部から離してから引き抜く.頤の下側の肉が離れにくいので注意する.本マニュアルでは,主に下顎を用いるので,上顎が引き抜きにくいときは,無理して取り出すことはない.

5.以上の方法を用いると,外部形態から種査定された標本から顎板を取り出すことが出来る.顎板による査定を容易にするためにも,それら外部形態から査定された標本からの顎板をリファレンスコレクションとして,可能な限り多種にわたり集めておくべきである.

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