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筑波実験植物園きのこ図鑑

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はじめに

きのこは植物ではありません。目に触れる機会が多いので意外に思うかもしれませんが、きのこはカビと同じ菌類なのです。菌類(=菌界に属す生物全般)にはその他、酵母や地衣類がありますが、ほとんどの菌類は人間の目で確認することが困難なほど小さい生き物です。だから、菌類は微生物、と聞いて違和感を覚える人はあまりいないでしょう。
でも、菌類の中できのこだけは例外だと思いませんか?ちょっと探せば、山奥まで行かなくても、身近な公園や校庭などにたくさんのきのこが生えている様子を見ることができます。ではきのこが生えていない時期、彼らはどうしているのでしょうか?実は、きのこは地下や植物基質に「菌糸」や「胞子」の状態で常に存在しています。でも菌糸や胞子を肉眼で確認することはとても困難です。つまり、きのこもその実体はやはり微生物なのです。
このように不思議な生態を持つきのこですが、人気がある存在のわりには、生物学的な実態は謎に包まれています。例えば、きのこは日本で何種、世界では何種存在するのでしょうか?上記の通り、身近な環境であってもたくさんの種類のきのこを見ることができます。私たちは身近な環境の代表として植物園を調査地として、「植物園に何種のきのこがいるのか?」という素朴な(しかし重大な)疑問を解決するために調査研究を続けています。

初夏の植物園に大量発生するタマゴタケ

初夏の植物園に大量発生するタマゴタケ

プロジェクト概要

調査地は筑波実験植物園 (茨城県つくば市)です。ここには日本各地・世界各地からの多様な植物が植栽されており、しかも各区画は自然植生を再現するために、実際に自然界でいっしょに生える植物が植えられています。例えば「冷温帯落葉広葉樹林帯」にはブナ・ミズナラを中心する樹木が植栽されていますが、これらは自然界でも「暖温帯落葉広葉樹林帯」のコナラやクヌギとはいっしょに生えません。
そして、生える植物が異なれば、発生するきのこの種類も大きく異なることが予想されます。つまり、筑波実験植物園の区画ごとにきのこを調査することで、日本中の様々な環境における多種多様なきのこを採集することができるかもしれないのです。そこで私たちは一連の調査研究を「筑波実験植物園の全きのこDNAバーコーディング化プロジェクト」と名付けて、2011年から本格的に作業を進めています。プロジェクトの目的は以下の通りです:

  1. 1年を通して、毎週1回のきのこ調査を行う;
  2. 生えているきのこ全種を採集する;
  3. 全て新鮮な状態の写真を撮影する;
  4. 全てからDNAを採取する;
  5. 1年間で1000点の標本を採集する;
  6. 調査結果をホームページ等を通じて公開する。
このうち、6.については、本ホームページでこれまでのきのこ写真、採集データ、DNA情報などを徐々に公開していく予定です。

雪の日も含めて毎週1回の調査を欠かさず継続中

雪の日も含めて毎週1回の調査を欠かさず継続中

これまでの調査結果

プロジェクトを本格的に開始した2011年当初は、年間1000点の標本を採集するのはかなり困難ではないかと考えていました。ところが実際に始めてみると、きのこが特に多い時期である初夏や秋には、あまりにもきのこが多くて採りきれず、泣く泣く採集せずに放置したきのこもたくさんあるような状況でした。にもかかわらず、年間の採集点数は1000点を軽く超えるペースで推移しています。以下が2011年以降の標本点数です:

  • 2011年=1161点
  • 2012年=1492点(累計2653点)
  • 2013年=1361点(累計4014点)
  • 2014年=1265点(累計5279点)
つまり筑波実験植物園内だけで、5000点を超えるきのこ標本を得ることができたのです。ある程度の限られた場所において、短期間にこれだけ大量のきのこを採集した例は、世界中の巨大プロジェクトを見渡しても例がありません。まさに筑波実験植物園を通して、日本中どころか世界中のきのこ多様性をかいま見ることができると言えそうです。
注意してほしいのは、上記点数はあくまで標本の点数だということです。種数ではありません。全くの同種でも別の場所から生えていれば同様に採集します。また、同じ場所から生えてきても、別の時期であればやはり採集して標本にします。だから、これまでに何回も採集されている種もたくさんあるのです。でもこれも大切な記録です。できるだけ多くの種を記録するだけでなく、毎年必ず生える種がどのくらい存在するのか、生える時期に変化はあるのか、などを追跡しているのです。

100個近いきのこ標本を1日で処理する場合も

100個近いきのこ標本を1日で処理する場合も

今後の計画

プロジェクトは2015年をもって第一段階を終えます。ただし頻度や規模は変えるかもしれませんが、調査は今後も継続していく予定です。これまでのペースから考えると、2015年が終わるまでに、さらに1000点以上のきのこ標本が追加されることになります。つまり、植物園のプロジェクトにより7000点近いきのこ標本を得ることができそうなのです。現在までに国立科学博物館植物研究部の菌類標本庫に保管されている全菌類標本は約10万点。これは100年以上にわたる日本の菌学研究の結果でもあります。本プロジェクトによりわずか5年で、全標本の1割近い数の標本が、科博の菌類標本庫に追加されることになりそうです。
もちろんきのこは採集して標本にして終わりではありません。形態・DNAその他情報を使い、種レベルで分類したうえで、「植物園には何種のきのこが存在するか?」という問いに答える必要があります。また、集中的に調査をしても採集できないきのこもたくさんあることでしょう。例えば、数年に1回しか発生しない種や、あまりにも小型で目に触れにくい種もあるでしょう。さらに、地下に生えるトリュフ類はこれまでほとんど採集していません。そのようなきのこを含めて種数を推定するためには、どうしたらよいのでしょうか?
この問題を解決する方法のひとつが、目に見えない菌糸や胞子を採集する、というやり方です。もちろん、目に見えないのできのこを採集するようにはいきません。でも、土を採取して、その中にある菌糸や胞子のDNAをまとめて解析することはできるのです。現在は植物園内の土壌サンプルも採取を始めています。土の中のDNAを解析することで、きのこ調査では確認できなかった、さらに多様なきのこを検出することができるでしょう。超大量のきのこ標本からのデータと、土壌DNAデータ。この両者を比較することで、本当の種数の把握にぐっと近づくことができるはずです。

アミガサタケ

アミガサタケ



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