有孔虫

 
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生きている浮遊性有孔虫(光学顕微鏡写真)

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浮遊性有孔虫の形のバリエーション(電子顕微鏡写真)
 有孔虫は、世界の海に生息している小さな原生動物です。大きさは数十ミクロン(髪の毛の太さ程度)から数ミリ程度ととても小さく、顕微鏡を使ってようやくその形の詳細を知ることができます。有孔虫は海洋の表層0〜 数百mの水深に浮遊して棲んでいる浮遊性有孔虫(ふゆうせいゆうこうちゅう)と、海底の表面、または数センチほど泥にもぐって生活をしている底生有孔虫(ていせいゆうこうちゅう)に分けることができます。地質学的な記録によると、約5億年前のカンブリア紀とよばれる太古の時代の地層にはすでに出現しており、時代によってその形を変えてきたことが知られています。
  有孔虫の殻は写真のように、タマゴ形の球がつながった部屋(チェンバー)からなっていますが、この殻にはさまざまな種類があります。チェンバーは貝やサンゴと同じ、炭酸カルシウム(CaCO3)でできており、内側に1つの細胞が入っています。チェンバーの表面には、細胞が出入りするための小さな(あな)が無数にあいており、これが有孔虫という名前の由来になっています。この孔から仮足(かそく)とよばれるねばりけのある糸状の細胞質をのばし、小さなプランクトンや有機物などの餌を採って生活しています。有孔虫の多くは数週間〜数ヶ月程度の寿命ですが、その間に生殖活動を行い、新たな世代をつくります。有孔虫が死ぬと、内側の細胞はすぐに分解されてなくなってしまいますが、殻は頑丈で壊れにくいため、海底に沈み、堆積物の中に化石として保存されます。このため、過去の時代の堆積物に含まれる有孔虫化石の形態、あるいは殻の化学成分の詳細な分析を行うことによって、それらが生きていた時代の海の様子、すなわち地球の環境の歴史についての多くの情報を引き出すことができるのです。
  近い将来、大気中の二酸化炭素濃度の増加によって海洋の酸性化が進み、有孔虫が殻を作ることができなくなるのではと心配されています。有孔虫が地球の長い時間と環境変動の歴史のなかで、どのようにして現在まで生きのびてきたかを知ることは、我々人間がどのように地球環境を維持していかねばならないかについて大きなヒントとなります。過去の地球環境を知ることは、未来を知るための鍵なのです。