微化石とは

微化石とは、ミリサイズからミクロンサイズの微小な化石の総称であり、いろいろな生物のグループが含まれています。その多くは単細胞の真核生物や微小な藻類ですが、節足動物の貝形虫や軟体動物の翼足類、花粉や胞子なども代表的な微化石です。さらに微化石のなかには、現在の分類体系のなかでその位置を簡単には決められないグループ、いわば謎の微化石も少なくありません。古生代から中生代にかけての代表的な微化石「コノドント」も、コノドント動物が発見されて、それがこの動物の摂食器官をつくるエレメントであることが明らかになるまで、まさに謎の微化石でした。
おもにハプト藻の円石からなる深海堆積物
(インド洋)[写真:高木憲治]
 微化石の多くは、海底や湖底、陸上の地層から大量に見つかります。単細胞の真核生物である有孔虫放散虫珪藻ハプト藻の進化を、古地磁気の極性反転の歴史や岩石の放射年代などと組み合わせ、地層の年代を決めるモノサシ「微化石年代尺度」がつくられています。また、海洋環境や湖沼環境の変化によって群集が大きく変わるプランクトンや底生生物、気候の変動によって変化する植生を反映した花粉や胞子などは、過去の地球環境を復元する指標としてよく用いられます。
  このように微化石は、さまざまな生物グループからなり、海底や湖底、陸上の地層に多産する珍しくない化石であり、地層の年代を決める手がかりや過去の地球環境を復元する指標になるなど地質学に有効な化石なのです。そして微化石は、地球生命史と地球環境の変動史に直接かかわってきた生物の化石でもあります。生命が誕生してからおよそ30億年間におこった生物の歴史のなかで、カンブリア紀初期の爆発的な進化によって多様な大型の生物が出現するまでの、少なくとも地球生命史の5分の4は細菌や単細胞の真核生物など微小な生物が生物圏の主役であったと考えられています。この微小な生物群は、光合成によって原始大気の酸素をつくりだし、殻や骨格をつくる鉱物を合成して地殻-大気-海洋の間で展開される地球の物質循環システムの一部を構成してきました。
ドーバーの白い崖(イギリス、セブンシスターズ)
 高さ数十メートルの切り立った白亜の絶壁が英仏海峡の両岸に連なり、ドーバーの白い崖とよばれています。この絶壁は、チョークとよばれ主にハプト藻の円石からなる軟質の岩石からできています。およそ1億年前からの白亜紀後期、極域に氷床が発達せず、海面が高くて浅い海が大陸の周囲に広がり、大気中の二酸化炭素濃度が現在の4〜5倍にも達して、温室のように温暖な時期にこのチョーク層が形成されました。かつて、地球温暖化は誇張を交えて「現在の地球環境は白亜紀に向かっている」と表現されたことがあります。まさに白亜紀は温暖化が極端に進行した地球を象徴する時代といえます。
  微小な生物は変動する地球環境のなかで出現と絶滅、発展と衰退を繰り返してきました。ドーバーの白い崖は、その極端な発展の記録なのです。この例で明らかなように、地球生命史と地球環境の変動史を理解するのに、細菌や単細胞の真核生物など微小な生物の変遷史の解明は欠かせないといえるでしょう。微化石の時空分布を縦糸に、地球環境の変動を横糸に、それら相互の関連をさぐるという方法で、地球生命史-地球環境変動史は組み上げられていきます。