研究室コラム・更新履歴

12月31日

宮古群島の植物
宮古群島は沖縄本島と八重山群島の間に位置し、最標高が宮古島の113mと、ほぼ平坦な島々からなる群島です。その宮古群島は沖縄本島や八重山群島と比べると植物種数が少なく、植物研究の対象としては見過ごされがちでした。しかし、この宮古群島には、ミヤコジマソウ、イラブナスビなど日本ではそこにしか分布しない植物が存在します。最近ではミツバウコギという日本新産種も宮古島で発見され(横田ら2013;写真)、ますます宮古群島の自然史的価値が高まっています。今年、関係機関協力のもと、ミツバウコギの現地調査をすることができました。それがどこから来たのか、なぜ宮古群島だけなのか、謎だらけです。今後、研究を進めて少しずつ解明したいと思います。
(植物研究部:國府方吾郎)

12月24日

蜘蛛の網目のような研究者の繋がり
写真:ヤマキレアミグモの網

クモ類は世界に114科3,973属45,756種が知られている(2015年12月9日現在)、などと書くと、どこからそのような数字が出てくるのか疑問に思われる方が多いでしょう。じつはスイスのベルン自然史博物館に本部を置く「World Spider Catalog」というウェブサイトがあって、世界中のクモの分類学に関する情報を逐次、無料で提供しているのです。私も5人の編集者の一人を務めています。クモ研究者の団体もよく組織されていて、国際クモ学会(International Society of Arachnology)やアジアクモ学会(Asian Society of Arachnology)などが主催する国際会議が毎年かならず世界のどこかで開催されています。
(動物研究部:小野展嗣)

12月17日

風化のふしぎ
高知県の横倉山近辺には、日本列島の中ではかなり古い部類に入る約4.5億年前の花崗岩が露出しています。かなり風化を受けており、いかにも古そうに見えます。一方、カナダ北部で採取した約30億年前の花崗岩は非常に新鮮な岩石で、とても30億年前にできたとは思えないような代物です。気候の違いなど様々な原因はあるのでしょうが、場所によってこうも風化の度合いが異なることには驚かされます。
写真は、左が横倉山の4.5億年前の、右がカナダの30億年前の花崗岩です。
(地学研究部:堤 之恭)

12月10日

竜宮城の海藻
2011年にユネスコの世界自然遺産に登録された小笠原諸島には珍しい海藻がみられます。それを狙い、毎年1回は片道25時間のおがさわら丸に乗って島へ向かいますが、今回、父島沖水深50mの海底から糸状の褐藻 Discosporangium mesarthrocarpum を採取しました。この海藻は地中海以外では稀産で、アジアでは初めての記録となりました。コンブやワカメなど褐藻類のなかで、もっとも祖先的な生物であることが知られており、栄養細胞の上にちょこんと載る小箱のような形をした生殖器官がこの海藻の特徴です(右の写真)。そこで、竜宮の乙姫様がお土産にくださるという玉櫛笥(玉手箱の古語)にちなんで「タマクシゲ」という和名をつけてみました。写真の生殖器官をよくみると空っぽになっていたので、このあとが怖いです(論文(英文)はこちら)。
(植物研究部:北山太樹)

12月3日

沿岸生物合同調査
海洋生物学共同研究の活性化を目的とした組織「マリンバイオ共同推進機構:JAMBIO」の共同推進プロジェクトとして、相模湾の浅海底から深海底までの底生生物の合同調査が行われており、当館の研究者も参加しています。相模湾は比較的良く研究されている海域ですが、いまだに未知の種が多数見つかります。多くの研究者が参加し、共同で作業することにより、より効率良く標本が得られ、標本を無駄なく分配することができるため、研究の進展が期待されています。写真は11月に筑波大学下田臨海実験センターで行われた調査の様子で、研究者が同センターの実習調査船「つくばII」に乗船するところです。
(動物研究部:齋藤 寛)

11月26日

世界遺産の保存
写真:世界遺産・端島(軍艦島)の鉱員社宅(大正7年鉄筋コンクリート建築)

今年7月に世界遺産に認められた「明治日本の産業革命遺産」。私も2009年の暫定リストの登録時から、その調査や申請に関わりました。登録までも大変でしたが、実はこれからがもっと大変なのです。世界遺産は、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持つ遺跡や物件などを、戦争や開発から守り、できるだけ現状で価値ある状態のまま、将来へ残していこうというものです。従って世界遺産に登録されたことによって、その現状をできるだけ維持し保存していく義務が生じます。特に産業遺産は、従来の文化財と異なり、本来、スクラップ・アンド・ビルドが当たり前で、保存や残すことを前提に作られていません。その価値を維持する保存の方針や手法は、これから具体的に確立していかなければならないのです。
(産業技術史資料情報センター長:鈴木一義)

11月19日

巨大二枚貝・シカマイアを復元する
古生物の研究では、生物と思われるが大分類上の所属のわからない化石をプロブレマティカと呼び、学名も付されることがあります。岐阜県のペルム紀中期(約2.6億年前)の赤坂石灰岩産のシカマイア・アカサカエンシスはプロブレマティカとして発表されましたが、後の研究で風変わりな巨大二枚貝であることが判明しています。この化石は石灰岩の表面に現れる断面でしか見ることができません。私の研究室ではシカマイア・アカサカエンシスの復元を進めています。筑波大学大学院生の安里開士さんにより1年以上に渡る小型の削岩機による剖出作業を進め、ようやくその全体像が明らかになってきました。日本館3階北翼の「日本列島の生い立ち」の展示室にはシカマイアのコーナーがありますが、近い将来この成果も展示したいと思います。
(地学研究部:加瀬友喜)

11月12日

まだシーボルトからは目が離せない
日本には2500種以上の維管束植物が生育しています。1784年にツュンベルクが著した日本最初の植物誌に記録されたのは270種に過ぎませんでした。その約50年後に有名なシーボルトが来日し、同じ温帯にあるヨーロッパには類似種さえない魅力的な植物が多数生育していることを喝破しました。彼はツッカリーニと共同で多数の新種を発表しましたが、当時の習慣で論文中に研究に用いた標本の引用や、タイプの指定はなされていません。そのため、学名が与えられた植物の一部で、正体がはっきりしないという問題が発生しています。彼らが研究に用いた標本はオランダとドイツの研究機関に所蔵されています。没後150年になる今、彼らが発表した新種のタイプを指定する国際研究が進められ、私もそれに参加しています。
(植物研究部:秋山 忍)

11月5日

巨大な子供のサメ
2014年冬に全長4 m体重500 kgのカグラザメを佐渡島の漁師さんから寄贈してもらいました。解剖して生殖腺を確認したところ、未成熟でした。そこで文献を調べてみると、4 m前後の子供のサメが捕れた例がいくつかありました。また、このサメは深海性なので、動きがスローと考えられがちです。しかし、5 m級の成魚の胃からはカジキ、マグロ、イルカ等がみつかっているので、相当速く泳いだり、巧妙な狩りができるのかもしれません。
(動物研究部:篠原現人)

10月29日

隕石の中の玉
岩石質の隕石の一部には球粒(きゅうりゅう)と呼ばれる丸い玉が入っています。写真は狭山隕石から取りだした球粒で直径が1mmもない小さなものです。通常は周りの部分としっかりくっついていて取り出すのは難しいのですが、狭山隕石は隕石が誕生した頃に大量の水が存在していたらしく、水質変成を激しく受けていて非常に脆くなっています。このため比較的簡単に分けて分析することができました。球粒は太陽系が出来つつあった頃に集まった塵が、宇宙空間で融けて表面張力で丸くなって固まったものです。これらが集まって隕石になり、さらに惑星に成長したと考えられています。個々の球粒を分析することで、惑星の材料である塵の化学的な特徴が見えてきました(論文(英文)はこちら)。
(理工学研究部:米田成一)

10月22日

6600万年前の大量絶滅のプロセスをもっと知りたい
(地球館地下1階に展示されている岩石標本を採集中の真鍋(右)とスミソニアン自然史博物館のリチャード・バークレー博士(左)。真鍋が右手で示しているところが小天体が衝突した時に出来た地層。)

地球館地下1階には、2014年10月にアメリカ・コロラド州で地学研究部の佐野貴司さんと一緒に採集してきた岩石標本が展示されています。約6600万年前のある日、小天体が地球と衝突し、急激な環境変化がありました。大量絶滅がどのように進行して行ったのかがわかるには、まだ十分な化石が見つかっていません。この岩石標本を採集するとき、周りの地形のデジタルデータも取得してきました。動植物の種数や体サイズがどのように変化したのか、時空間座標的にデータベース化出来るよう、準備を進めています。
(地学研究部:真鍋 真)

10月15日

ヒョウタンから駒
といっても、開催中のヒョウタン展のことではありません。最近見つけた新種の話です。この10年ほど、ムカゴサイシンというラン科の絶滅危惧種の保全をめざした研究を進めています。この植物の繁殖方法を知るため、自生地の株ごとの遺伝的変異を解析しました。すると一部の株は尋常でなく遺伝的な違いが大きいのです、見た目は同じなのに。改めてサンプルを見直したところ、わずかな違いを発見!先日、米国植物分類学会誌に新種Nervilia futagoとして発表しました。思いがけない場面で新種を見つけてうれしくもあり、これまで違いを見抜けなかった眼力のなさが情けなくもあり、複雑な心持ちです。
(植物研究部:遊川知久)

10月8日

筑波実験植物園にいた大珍品「ワレモコウチュウレンジ」
ワレモコウチュウレンジというハチの幼虫はワレモコウの葉だけを食べて育ちます。ワレモコウはふつうにあるのにワレモコウチュウレンジは大変珍しく、これまでに日本で採集された成虫はわずか20頭ほど。数年前にこのハチの生態を調べて発表しましたが、その後、幼虫も成虫も全く見つからなくなってしまいました。その幼虫を先日筑波実験植物園で見つけて仰天しました。なんとか生き延びていってほしいものだと思っています。
(動物研究部:篠原明彦)

10月1日

残された遺産をいかに保存し生かすか
科学史・技術史は、歴史学の一分野です。残された文献や資料がなれば研究は始まりません。対象とするものは人が作ったものなので、誰かが残していなければ無くなっていたものばかりです。特に日本のように国土が狭く、現代のようにせち辛い世の中では、誰かが特に残す努力をしてこなければ現存していないでしょう。私の研究の一端は、地道にそれらを発掘し、保存し、歴史的価値を明確にすることです。
数日前に頂いてきた廃棄予定の発電機(写真)は、極めて初期の火力発電所で使われていたアーク灯用の発電機です。これが今迄保存されてきているとは、まったく知りませんでした。不勉強を恥じると同時に、保存されていたことに感激しています。詳しく調べてもう一度歴史の表舞台に出してあげたいと思っています。この機械の保存に尽力された見知らぬ幾人もの人々の思いを感じつつ・・
(理工学研究部:前島正裕)