国立科学博物館―寄付研究部門への寄付のお願い

独立行政法人国立科学博物館は、我が国唯一の国立の総合的な科学博物館として、自然や科学を身近に感じたり、考えていただく場となるよう、インパクトのあるわかりやすい展示・学習支援活動を行っています。また、自然や科学技術に関する貴重な標本資料を収集・保管し、公開するとともに、その調査研究を通して、我が国の学術研究の進展に寄与しています。

そのような役割を担っている当館に、このたび、新たに「自然史標本の保存・修復・活用に関する研究部門」を寄付研究部門として立ち上げることにしました。今日のグローバルな社会の中で、国内外の標本の適切な受入・貸出の面では勿論、遺伝資源としての活用の面においても自然史標本の保存・修復そして活用に関する科学の推進が喫緊の課題となっています。

つきましては、本研究部門の立ち上げのためのご寄付について、なにとぞ皆様の御理解と御協力を賜りたく、お願い申し上げます。

館長   林 良博

国立科学博物館には、菌類から植物、動物までの幅広い分類群を専門とする研究者が在籍し、420万点を超える自然史標本が所蔵されています。

これら自然史標本の保存・修復については、これまで文化財に関するような専門研究機関もなく、主に個々の研究者の経験に基づいてその方法が蓄積されてきました。そこでは、組織的・継続的な対応が十分とはいえず、いかにしてそれらを次世代に確実に継承してゆくかが大きな課題となっています。また、日本を含むアジア地域で行われている防虫のための燻蒸による化学薬品処理がDNAを損傷することはよく知られており、さらに、アルコール・ホルマリン中の液浸標本という形態での保存では今後のDNA情報の活用に耐えうるか問題となっています。

東日本大震災時の修復や保存に関する活動においても、自然史標本等については、法令整備なども含めそれらのあり方について課題が浮き彫りになりました。

以上のようなことから、我が国における自然史等の中核的研究機関である当館に、世界に先駆けて、こうした保存・修復・活用に関する一体的な研究部門を設けて、自然史資料の保存・修復と活用に関する科学を確立することをめざします。

現在、当館の420万点を超える登録標本のうち約360万点は動物・植物標本です。それらの多くの動物・植物標本は、液浸か乾燥して保存されておりますが、これらの自然史標本は、将来にわたっての研究資料となるものであり、遺伝子組成、形態特性などが明らかにできうることが重要です。

また、これらの動物・植物標本は、明治初期のものからあり、年代ごとにDNAの断片化の程度を測定することにより、損傷の程度を時代とともに表すことが可能となるものです。すでに当館の一部の植物標本ではこの研究が進められていますが、他の標本についても、断片化の測定を行い、低温保管庫で保存されている標本と比較することにより、どの程度の損傷を受けているのか、時代と保存方法で比較検討することが可能となります。

同時に、現時点において、できるだけ早急に修復すべき標本が多数あり、それらに適切に対応する修復技術の確立も目指す必要があります。

新しい保存等の方法が確立することによって、以下のようなことが期待できます。

  • 1)登録されている標本を、保存体制ごとに仕分けして保存することができるようになります。すべてが同じ温度・湿度での保管ではなく、適度な条件での保存が可能となり、質的にも経済的にも効果が期待されます。
  • 2)新しい保存方法で環境悪化に対処することができます。現行のアルコールやホルマリンでの保存は、収蔵庫の環境を悪化するもので、人的影響も改善されるものと期待されます。
  • 3)海外からの貴重標本に関しては、低温保管をすべきか通常保管で十分かの判断材料となり、海外標本の採集で相手国からの信用を得ることができるものと期待されます。
  • 4)研究目的によって保存された標本の選択が可能となり、各研究者が安心して研究等に取り組むことができるようになります。多くの生物が遺伝資源として未利用のままであり、今後の研究での活用に大きな貢献ができるものと期待されます。
  • 5)保存方法の確立は、修復すべき標本を将来的に少なくすることができます。また、展示・教育標本として他の博物館への貸出しを迅速に進めることができるものと期待されます。
寄付研究部門の予算

当面の3年間の立ち上げ予算案)

寄付目標総額……3,000万円(年平均1,000万円 × 3 年間)

〔年間経費内訳〕

□ 人件費…………600 万円(特定研究員1名)自然史研究者

□ 人件費…………200 万円(事務補佐員1名)資料整理

□ 物件費…………200 万円(機器、消耗品、旅費等)

■ 年間計…………1,000 万円

寄付研究部門の予算

長太伸章 特定研究員昨年(2014年)7月に,当館で初めて寄付研究部門の寄付の立ち上げを決定後,皆様から暖かいご寄付をいただきました。12月に,ご寄付総額が目標の半分を超えた時点で,研究員を募集することを決定いたしました。今年(2015年)1月に公募を行い,多数の応募の中から選考の結果,京都大学で理学博士を取得された長太伸章氏を寄付研究部門の特定研究員として採用することを決定いたしました。

長太研究員は、今年3月までは東北大学大学院生命科学研究科で昆虫のDNA解析の研究者として研究に従事し,日本進化学会,日本昆虫学会,日本生態学会、動物学会の会員です。長太研究員は,当館に応募するにあたり,「学術的に貴重な標本が不適切な保管などでDNA解析が困難になることを防ぐためにも,早急に標本保管の方法を比較・改良することによって,後世に貴重な標本を残すべく,長期保管方法を確立する研究をしたい。」との抱負を持っておられます。今後の活躍を見守りたいと思います。

なお,本研究部門に関しましてはまだ道半ばでございますので,今後もご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2015年7月
館長   林 良博