標本・資料の収集・保管・活用

地球や生命の歴史と現状及び科学技術の歴史を研究するためには、自然物や科学技術の産物などの「モノ」が不可欠です。国立科学博物館の使命は、この「モノ」を継続的・長期的に収集・保管し、将来にわたって継承していくことです。当館の標本・資料は、学名の基礎となるタイプ標本など、国際的にも永続的な保存が要請されています。

標本・資料は現在及び将来の研究に貢献することはもとより、展示や学習支援活動を通じて、人々の科学に対する理解を深めることにも役立っています。

哺乳類標本室(自然史標本棟7階)
哺乳類標本室(自然史標本棟7階)

ナショナルコレクションの構築

当館は、我が国として誇れる数と質をもった「ナショナルコレクション」の構築を目指しています。当館が保有する標本・資料は、動物・植物・菌類標本、生きた植物、鉱物、化石、人骨、科学・技術史資料など多岐にわたります。国内外の膨大な標本群を核に、学名の基となるタイプ標本や重要文化財等、世界的にも貴重な標本・資料を含んでおり、質・量とも我が国でトップ水準にあります。生物標本については、様々な分類群で遺伝的研究に利用可能な標本も収集しています。DNA 試料を採取した証拠標本とその遺伝子情報を一体的に保管することで、科学的再現性を担保したコレクションの充実に努めています。

同一種の生物標本でも同一の鉱物の標本でも、完全に一致するものはありません。例えば、生物は同じ種でも年齢、性別、生息地などで変異があります。また、長期間にわたり継続的に各地の標本を収集することで、生息域の変化などを読み解くことも可能になります。

このように、定量的な研究のためには、同一種の標本、同様な資料でも数多く収集・収蔵することが必要です。様々な標本・資料を将来にわたり良好な状態で保存し続けるためには、温湿度管理や保管環境の整備を進める必要があります。また、増加する標本・資料のため、新たな収蔵スペースの確保も重要です。

超低温冷凍庫で保存されているDNA・組織標本
超低温冷凍庫で保存されている
DNA・組織標本

全国的な標本資料情報の収集と発信

当館は、科学系博物館のナショナルセンターとして、全国の大学、研究機関、企業、博物館等がそれぞれに所蔵する自然史標本、科学技術史資料の情報を集約・共有し、広く発信することで、標本・資料の利活用の促進、さらには散逸を防止し確実に未来に継承していくことを目指しています。

自然史標本については、全国の大学や博物館等の協力を得て、各機関が所蔵する標本の統合検索システム「サイエンスミュージアムネット(S-Net)」を運営しています。また、これらの情報を、生物多様性情報の共有と利用に関する国際機関「地球規模生物多様性情報機構(GBIF)」に提供し、世界に発信しています。さらに、大学や博物館等が所有する貴重な標本・資料の散逸を防ぐため、多数の機関と協力した「全国的な自然史系標本セーフティネット」を運営しています。

科学技術史資料については「標本・資料統合データベース」で公開するとともに,学会や工業会等と協働で調査した産業技術史資料の情報を「産業技術史資料データベース」で公開しています。また、各地の産業系博物館が参画する「産業技術史資料共通データベース(HITNET)」を構築・公開するとともに、調査研究に基づき特に重要である資料を「重要科学技術史資料(愛称・未来技術遺産)」として登録をしています。

S-Net
S-Net

標本・資料の電子情報化と公開・活用

当館では、標本・資料情報の一部をデジタル化し、「標本・資料統合データベース」を通じて公開しているほか、タイプ標本・魚類・海棲哺乳類・菌類・ 古植物文献など対象別のデータベースも構築し、国内のみならず世界中の研究者に供しています。

また、標本・資料情報のさらなる利活用を目指し、画像をはじめとする公開データのデジタルアーカイブ化を進めています。研究者資料や図譜などを、研究者だけでなく一般の方にも利用しやすい形式で公開し、さらに、これらに解説を加えて電子展示としても公開しています。

高精細な写真の撮影、古い標本からの DNA 情報の取得、標本の形態の 3D データ化など、技術の進展にともなって日々新たなデジタルデータが生み出されています。その運用のためにも、物的証拠としての標本・資料とデータを一体化して保管し、データも含め利活用しつつ未来に継承していくことが重要です。

標本・資料統合データベース
標本・資料統合データベース